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郊外物語

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その時、尻の下で何かがずれるような感じがした。尻か太腿の動脈の拍動を感じたのかと思った。小刻みに椅子が左右に揺れ始めた。棺に粉雪が落ちてきたので不審に思って見上げると、白い十字架が左右に揺れていた。地震である。粉雪は、舞い降りてきた天井の石膏の粉だった。揺れはますますひどくなった。神父は説教どころではなくなり、顔色を変えて焼香台の下に身を隠した。あちこちから女の叫び声があがった。ほとんどの参列者が立ち上がったが、出入り口に殺到はせず、うろうろするだけだった。急に強い縦揺れが襲ってきた。男たちも叫び声を上げた。揺れはますます強くなった。最前列にいた男たちが棺に飛びついた。棺が横にずれてきて、床に転落しかねなくなったからだ。その男たちのあいだ、棺の中央左側に、落下してきた十字架が激突し、乾いた大きな音を立てて三つに割れ、床に跳ねた。こまかな破片が宙に舞った。指をつぶされた男がうなりながらうずくまった。棺全体は共鳴胴となって法螺貝のような音を長々と立てた。しかし、真砂子は、それらの音ではない、もうひとつ別の、恐ろしい、狂気に駆られそうな音を聞くまいと、さっきから、力いっぱい両手で耳を押さえていた。出来ることなら一刻も早くその場を走り去りたいところだったが、パニックを起こして腰が抜けてしまった……。棺の中から鈴の音が聞こえてきたのだ。玲子の右手の人差し指につながっている鈴の音は、呼びかけるように、訴えるように、執拗に鳴り響いた。

十二月十八日、日曜日
 
真砂子が起きようと最終的に決心したのは午前十一時だった。
作品名:郊外物語 作家名:安西光彦