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郊外物語

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真砂子は、義人が玲子との個人的関係を否定するつもりでいるのがわかった。携帯に示された明白な事実にもかかわらず、玲子とは、医者と患者の関係に準じた関係にしかなかったと言い張りたがっていた。真砂子は急に玲子を話題にする意欲がなくなった。義人の態度はどうつついてもこれから変わらないだろう。大筋では義人を許容し恩を着せることをすでに決意しているのだから、これ以上玲子とのことを話題にするのは、義人に不快感を募らせるだけになる。下手なつつき方で薮蛇になる恐れもあった。
「義人さん、私眠くなった」
義人は前後に体を揺らめかせながら立ち上がった。真砂子は両足を床から引き上げると布団の中に差し込んだ。数秒たって、真砂子のうなじに酒臭い息がかかった。

十二月十七日、土曜日

午後二時から玲子の葬儀がとりおこなわれた。
冬空は一点の雲もなく高々と晴れ上がっていた。冷たい北西風も時折そよぐだけで、いちいち人が背を丸めたり襟を立てたりする必要はなかった。斎場の正面には黒白の幔幕の前に二重三重に花輪が並んでいた。昼過ぎから斎場前の広場には参列者の列が出来た。焼香を済ませた人のほとんどは帰らずに、斎場内に席を見つけるか広場のそこここに待機した。二時近くには、斎場内の二百の席はすべて埋まり、壁際に立ったままの人も少なくなかった。広場も、車の通る道だけをあけて人で満ち、敷地を区切って直交する道路にも人が溢れた。出動している交通警官は十名を下らなかった。
真砂子はツーピースの喪服を着て、朝から手伝いに出た。多忙を極めた。気がつくと昼食をとらないままに二時になっていた。式の始まる前に、戸締りを確かめに回った。二階の集会場には、早くもくたびれて壁を背にして坐り込んでいる人や座布団を折って枕にして横になっている人たちがいた。貸し切りバスで飯田からやって来た人たちだ。その人たちを尻目に、五六人の子供が走り回っていた。受付の男たちは、斎場入り口からホールに続く廊下の右側にある事務室の金庫に香典を収納し、見張りを二人付けていた。彼らのいうことには、招待状を持参しなかった人物や故人とのつながりが不明な人物が、斎場内に十人以上いるということだった。
作品名:郊外物語 作家名:安西光彦