郊外物語
舞台は東京に移る。事件の一ヵ月後に、漁師が伊都子に電話をかけてくる。東京に来ている、会って欲しい。漁師は撮った写真やビデオの一部をちらつかせて伊都子を脅迫する。金を要求する。何度かの交渉場面。伊都子は疲れ果てる。情緒不安が高じ、ヒステリーを連発する。家庭の崩壊が始まる。子供が二人とも不登校児となり、日本人男性と外国人女性の家庭教師の世話になる。夫の多田和久の母親が、養老院に行きたいと言いだす。伊都子は自暴自棄になる。漁師は伊都子を連れ出す。伊都子は漁師に犯される。伊都子は漁師を罵倒する。あげくの果てに、逆切れした漁師に撲殺される。一方、小阪昭子の夫の繁も、酒びたりの生活がつづき、会社の検診で膵臓がんの疑いありと申し渡される。さらに時が流れる。小阪繁が死ぬ。和久の母親も養老院で死ぬ。和久は子供二人と暮すことになる。ここで第六話が終了した。
白い背景に黒の太字で書かれたテロップが画面に現れた。
脚本を担当してきた新庄玲子が急死いたしました。スタッフ一同動転しております。故人には謹んで哀悼の意を捧げる次第です。最終回は数々の事情により放映延期を余儀なくされました。予告編もお見せする余裕がありません。しかし、三週間後のこの時間に放映の予定です。今は亡き新庄玲子渾身の衝撃的最終回となるはずです。スタッッフ一同、視聴者の皆様の絶大なる御期待を乞い願います。
真砂子はテレビのスウィッチを切った。そして、つくづく見なければよかったと慨嘆した。悪夢であり、凶兆だった。全精神力を振り絞って、ドラマと自分達との違いを枚挙していった。ドラマごときに現実をリードされてはたまらない。あの頭の真ん中にあるスウィッチを二度と入れてはならない。悪魔のささやきを聴いてはならない。
真砂子は、死んだ玲子の意図がわからなかった。明らかに新庄夫婦と自分達夫婦のことを題材にしている。この第六話の内容は何をあらわすのか。現実には目撃者は現れなかった。事件は事故として処理され、けりがついている。ドラマのとおりに今後現実が進んでいけば真砂子は殺されることになるが、前提となる目撃者がいなかったので、そうはいかないのだ。それとも今後目撃者が出てくるのか？ 撮った写真をタネにして脅迫する？ ばかばかしい。ありえない。真砂子は、なんとかして自らを納得させ、安心を得なければならなかった。