郊外物語
真砂子は、行為から一日半しか経っていないのに、もはやどんな喜怒哀楽も生じない自分の心の荒涼ぶりをしみじみと味わっていた。裂けた感情の傷はたちまち閉じてしまった。他人の死は急速に遠ざかっていく。非日常世界からの暗示や誘いにかっとなり、狂気を実践してしまい、すぐ又日常にそ知らぬ顔で戻ってきた自分。感情の激発を関所手形のようなものとみなし、用がすめば心の奥底にしまいこみ、忘れてしまう自分。真砂子は前日のおのれの感情と行為に対して疎外感を抱く。それは日々刻々と堅固になっていった。この疎外感が障壁となってくれて発狂を免れているのに、そのありがたさを理解していなかった。殺す者も殺される者も、土壇場で心の奥底の憎悪や怒りや恐怖を白日の下にさらけ出す。この最深の感情の交換は、なにやら強い絆で結ばれた友愛の成立に似ている。殺害者は相手を殺した後に自殺することがよくある。このニセの友愛感情に陥り、友引の誘惑に屈するのだ。疎外感はこの誘惑に冷水を浴びせてくれもするのに、真砂子の理解はそこに届かなかった。安泰な日常、安泰な希望が確保されたにもかかわらず、この疎外感に不満すら感じ始めていた。それはもう贅沢というものだった!



