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郊外物語

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「うちは、働いているお母様方のために、オムツの取れない乳幼児から幼稚園にいく前の二歳児までをお預かりしております。保母三人で運営しています。赤ちゃん達にはまずミルクを飲ませて眠ってもらいます。夜お母さんを悩ませて起きていたんですからね。年長さんたちには、となりの部屋でいっしょにお遊戯をしてあげたりお話しをきかせたりします。あの時、もう赤ちゃん達は全員ミルクを飲み終えて眠っていました。年長さんたち四人には私が紙芝居を見せていました。残りの一人は、私以外の保母さんが二人がかりで着替えをさせていました。おしっこをしてしまったからです。外でドンという大きな音が聞こえたのと赤ちゃん達がいっせいに泣き出したのと、ほとんど同時だったと思います。いや、正直に申しますが、私の記憶では、赤ちゃん達が泣き出したほうがやや早かったように思うのです。なにが起きたか分からなくて、私達は、おろおろしながらかわるがわる赤ちゃんを抱き上げてあやしました。赤ちゃん達は泣き止みません。変なことが起きたなと不安になって、私は無意識に時計を見ました。十時二十分を少し過ぎたところでした。寒さが気になりましたが、私は泣き止まない赤ちゃんを抱いたままベランダから花壇の横の遊歩道に出てみました。私達の託児所のある一階の端から三戸目の外の歩道に人が群れていました。女の人が大声で泣いていました」
病院を早退してきた真砂子のところにも捜査員がやってきた。真砂子は、落下直後の死体を見たと正直に伝えた。二人組みの刑事の前で泣いてみせた。義人は病院にかかってきた電話だけで取調べが済んだ。

十二月十五日 木曜日 午後六時

警視庁は事件の翌日の昼に事故死との判断を下した。
遺体は新庄家には戻らず、町内にある斎場に安置され、夕方から通夜が執り行われた。斎場は葬式のある土曜日まで三日間貸切である。
真砂子は勇を鼓して出席した。弔問客の作る列の最後尾についた。
斎場は学校の体育館ほどの大きさの二階建てで、一階の床の八割が吹き抜けになっている。残りの二割を占める床の一階部分は炊事場と物置、二階部分は四十畳敷きの集会場になっていた。
作品名:郊外物語 作家名:安西光彦