郊外物語
遺体は大塚の監察医務院に運ばれて、司法解剖に付された。頭蓋骨、頚椎、脊椎骨、腰骨の挫めつ、内臓破裂以外に、膣内精液の残留が確認され、また少なくとも二度の妊娠中絶の痕も確認された。
玲子の死は、その日の午後の報道番組で早くも全国に伝えられた。各紙の夕刊の社会面には、若手人気シナリオライター、自宅マンションから転落死、事故の可能性大、といった内容の記事が出た。最初の警察側の発表では、事故死と自殺と二通りの可能性があるとされていた。所轄署の署員と本庁出向組を合わせて五十人態勢で、周辺の聞き取り捜査がおこなわれた。マンションの全戸に捜査員が訪れた。転落そのものを目撃した者は出なかったが、衝撃音を聞いた者は二十名を超えていた。その中に、音を聞いた直後に時刻を確かめた者が三名いた。いずれも十時二十分だったと明言した。このことはマスコミを通じて広く伝えられた。落下時刻を確認した人物の中に、マンションの託児所に勤める保母である児島亜佐美がいた。彼女は捜査員に対して次のように証言した。



