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郊外物語

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「ぼくはサスペンスドラマというものをまともに見たことがないんですよ。そもそもドラマをちゃんと見たことがない。もっと言うと、テレビをほとんど見ないんです。このモニターで見るのは、もっぱら古い映画です。だから玲子さんの作品に対する感想なんか、口にする資格はないですよ。女房がしゃべりたがってるみたいだから、聞いてやってくださいな」
どこを見てしゃべりたがっていると判断したのだろうか、と真砂子は不審げに夫を見た。新庄夫婦がやってくる前、一話から四話までのあらすじに若干の真砂子なりのコメントを付け加えて義人に伝えておいた。そのときのしゃべり方が、若干熱を帯びていたかも知れなかった。真砂子がこのドラマに嵌まっているのがばれたようだ。だが、それは大したことではない。その後に、今の義人の発言を前もって諌める注意を与えたはずだった。
ほとんど毎週末付き合っている人間が、公に表現している作品を、拒否し続けるのは、不信感や不快感を相手に与えることになるでしょ。時間がなくて、とか、そっち方面は苦手で、とか言ってごまかしているようだけど、テレビ放送されて、子供も老人も見ている番組に、積極的な拒否反応を示すのは、作者や市民社会を信用していないかのようで、それならそれなりの弁明があってもいいのではないかな。
ところが義人は、あなたの作品には関心がない、という内容を玲子に伝えてしまった。どうせ、古い映画のレベルには達していないでしょうから、と言ったようなものだ。あれだけ言っておいたのに、それが失礼であるのを分かっていない。真砂子の諌めをちゃんと聞いていなかったのだろう。抜けているのか頑固なのか。こういうところには、時々だが、がっかりする。
真砂子はしゃべるべきことを思いつかなかった。玲子にねだらせて、義人のコメントを引き出してもらおう。
「うちは夫唱婦随なの。義人さんがしゃべった後に口を開くわよ」
別に意地悪からではなく素直に言った。義人をさらによく理解する機会がやってきそうだった。そのうえ、他人に向かって演説口調でしゃべる義人の姿を、昔からかっこいいと思っていた。
「私もやっぱり鹿野さんの御感想を聞きたいわ。お医者様独特の見方もうかがえるかもしれないし。特に外科医でいらっしゃるから、たくさんのライトを当ててメスで切り裂いてくれるわよね。恥ずかしいけど、私、興奮するわ」
作品名:郊外物語 作家名:安西光彦