郊外物語
真砂子は、ため息の意味がわからなかったせいで、ますます落ち着かなくなった。玲子はにっくき敵対者であるとともに、不可思議な言動を撒き散らす存在になろうとしていた。そういう複雑なことを、事ここに至ってやってもらいたくはなかった。自分が玲子を理解していないのではないかという疑いを一瞬持った。さらには達郎を。真砂子はそのような気の迷いを意志の力で心の中から一掃した。私は、ここに何をしに来たのか? 曖昧模糊とした猜疑に足をとられて、はっきりとした現実的な課題の解決を怠ってはならない。言うべきことをいってしまってから、相手の反応を見て、考えることにしよう。
しかし、動揺はおさまらない。宿痾のキッチンドリンカーである真砂子は欲しくなってきた。酒でもないかなぁ。
静かに立ち上がると、勝手知ったる台所へ入っていった。ワインクーラーに、ハバナクラブが突っ込んであるのを知っていた。達郎がキューバに女あさりにいって土産に買ってきたものだった。現地ではモヒートにして水代わりに飲んでいたそうだが、日本に帰ってくると、飲まなくなったらしい。玲子がときどき飲んでいるのを真砂子はこっそり知っていた。玲子もまたキッチンドリンカーになりかけている。達郎はこういうことを平気でしゃべる。ワイングラスに半分ついで、一息で飲み干した。粘膜が仮死状態になるほど強い。一時間少々後には、ナースステイションに詰めていなければならないのに、私は何をしているんだろう。深く反省しつつ、もう一杯飲んだ。



