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郊外物語

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真砂子は内心せせら笑った。あなたの助けがないとなにもできないだって? なんと大げさな。お世辞のつもり? こちらは、たいしたことはしてきてませんよ。達郎がいるだろうに。甘えるなら達郎に甘えな。私の敵がこんなガキだったとは。さては女子高生が、男教師を好奇心と性的欲求から誘惑するように、義人を誘惑したんだな? それにしても周りにたよって生きてきたお嬢さんの口ぶりだなぁ。周りもまたちやほやしただろうからなぁ。
真砂子は優越感からくる余裕をいささか持ってしまった。中流階級の市民の女性すらみんなお嬢さんに見えた。ましてや玲子は言うもがなだった。玲子に苦労や苦悩の生まれる余地はないはずだ。
さらに感心したことがあった。不倫のふの字も感じさせないとぼけ振りはお見事だなぁ。たいした役者だ。あの破廉恥な着信を書いたとは思えないカマトトぶりだ。ま、しかし、女子高生が、親に見つからないように、性生活をやってのけてるのと同じか。じゃ、大したことないか。ただ、どうも、すっきりしない。
急に、なぜかはわからずに、真砂子はこの場から逃げ出したくてたまらなくなった。
玲子は、ベランダで十二月の寒風にさらされていた。セーターはたるまずにわき腹の周りに張り付き、そのかわりにロングスカートがヨットの帆のよう膨れ上がって震えていた。下からは車の流れの立てるどよめきが沸き上がってくる。それは一定ではない。交通信号の切り替わりに従って、車の流れが止まったり進んだりするので、あたかも波が打ち寄せては引くような、断続的なものとなる。正面には、通りを隔ててマンションとオフィスビルが立ち並び、その間から午前の冬の太陽がオレンジ色に血走った目のようにこちらをのぞいていた。
「この葉っぱや枝やそこの樅の木は、模造品に見えるでしょう。だけどね、本物なのよ。達郎が奥多摩に行ってとってきたの。このテープは、去年のとは別もので、先月のうちに達郎が作っておいたの。点滅をしばらく見ていると、赤鼻のトナカイのメロディーをなぞっているのがわかるはずよ。達郎は、ああ見えて、実は凝り性なのよ、どんなことにでもね」
そう言って玲子はため息をついた。
作品名:郊外物語 作家名:安西光彦