郊外物語
リビングの中央に、真砂子がさっき片付けてきたのと同じ型式の掃除機が突っ立ったままになっていた。やはり掃除の途中だったのだ。どちらが先に買って、どちらが真似をしたのか、掃除機のことを話題にしたことがあったか、もうわからないし覚えていなかった。同じ型の携帯のことをまた思い出して、同じ、がなぜこんなに目立ってしまうのかなと思う。自分の神経症が亢進して、今や神経症でもない、それを逸脱し、はみだした状態に自分はあると思う。こんな自分を、慰撫してくれ得るのは義人しかいないのに、心に浮かぶのはなぜか達郎だっだ。どうしてなのか。思いあたった。はっきり言ってやろうか、と自分を軽蔑しながら自分にきかせてやる。虎治なんだ。虎治が自分の心のなかでは死んでいない。未熟な虎治は、成長して悪の華のような達郎になっているんだ、その呪縛から自分は逃げられない。虎治=達郎は、自分を支配しているんだ。真砂子は心中で実に嫌な、そして実に正しい確認をしてしまった。真砂子はさらに思う。玲子がいくらでも別れるチャンスがあったのに達郎と別れられなかったのは、第一に、性的な離れがたさがあったはずだ、自分はまだ寝ていないが、つくづくさもありなんと想像できる。しかしそれにもまして、達郎の悪の呪縛力のものすごさが、玲子を逃げさせなかったのだ。



