郊外物語
我に返って、ベッドの下から這い出ると、気を取り直して掃除に励んだ。今日は、十時までに市立病院のナースステイションに到着していなければならない。しかし、動揺は止まない。掃除機の先にから、たくさんの赤い携帯受信機がゴキブリの死骸のように吸い込まれていく幻想を見る。胸がむかつく不快な幻想だった。達郎の自分に対しての、玲子の義人に対しての、不快な、不当な、迷惑を面白がっているような破壊行動に今日もまた腹が立ってきた。特に、玲子のふざけた行為に対しては、こちらには正当防衛の権利があると内心で咆哮し、あらためて憤怒に燃えた。連日燃え上がる憤怒は、刻々と勢いを増してきてどうにもならなくなった。とうとうこの三日間の思案の末にたどり着いた計画を断固実行しようと、達郎に電話をかけたのだった。
達郎の言うには、玲子は、今部屋にいて、掃除中だ。水掛け論に陥り、ののしり合い、はては、髪の毛をつかみ合って相手を引っ張りまわす、などということになりかねなかったから、玲子と一対一になるのを真砂子は避けてきた。終始冷静でいられる自信はなかった。むしろ冷静でいることで相手にこちらの嵐の心情が伝わらないのはむしろ悔しく思うはずだ。いかにこちらのダメージが大きいかをはっきりと伝えなければならない。さらに、いくら玲子が暗躍しても無駄であることをやはりはっきりと伝えなくてはならない。どちらの家庭にとっても無駄で無益のことをしようとしている根本動機を探り捉えて、恐らくはそれを自覚していない玲子に提示してやって、己の愚かしさに恥じ入らせねばならない。それだけのことを逆上せず、しかし静かな怒りをみなぎらせつつやり遂げるだけの精神力を自分は持っているかどうか。自信はなかった。しかし玲子は今部屋にひとりでいる。修羅場になりそうだったらさっさと帰って来よう。出勤時刻まで一時間半だ。そのくらいの時間は、自己コントロールを保持できるだろう。



