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郊外物語

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私の顔を見たくないとおっしゃっていたけれど、折り返しお手紙をください。お前と会う、と書いてください。きっとですよ! お待ちしています。

高森專衛門は、引き続いて自分が娘に書き送ったメールのコピーを読んだ。短いものだった。

前略、玲子殿。
今日はもう電車がない。明日八王子発、十一時三分の特急に乗りなさい。飯田には三時四十分に着く。ここの寒さと雪のことを、お前はもう忘れてしまっているかもしれないね。今日は、午後二時の時点で摂氏五度積雪四十五センチだ。駅の葉牡丹もすっかり雪に埋まっている。私は長靴を履いてお前を迎えに行くつもりだ。
草々

十二月十四日 水曜日 午前八時四十五分

達郎の歯の浮くようなわざとらしい誘惑のせりふをまた聞かされるのかと思うと気が重かったが、真砂子はどうにも我慢できなくなって達郎の携帯に電話をかけた。玲子の不倫を止めさせるために、達郎を利用するという誘惑に、抗し切れなくなったからだった。真砂子のたくらみはこうだ。達郎に、やんわりと、玲子が義人に傾きかけていると伝える。達郎は驚くかもしれないし、察していたと答えるかもしれない。達郎があまり動じないなら、どぎつさを強めてやる。達郎の役割は、玲子を説得することだ。そんなことをしても徒労だ、あの夫婦の結びつきはお前の考えているほどやわではない、義人に遊び心の入り込むすきがないのは、男同士の付き合いを通してよく知っている、と。達郎だって、玲子のよろめきを知れば、玲子の頭を冷やす必要性を感じるだろうから、たとえこちらが頼まなかったとしても玲子の説得に努めるだろう。万一その役割を達郎が拒否したら、達郎が真砂子に言い寄っていることを玲子に伝えるぞと脅すのだ。達郎はただでさえ、だらしないのんだくれで、無能のくせに怠惰で、稼ぎが女房の五分の一しかないヒモである。真砂子へのちょっかいに、玲子は堪忍袋の緒が切れるかもしれない。達郎は、小遣いを大幅に削られ、場合によっては玲子に愛想をつかされて捨てられ、不況の寒空の下をうろつく羽目になるかもしれない。そんな事態を達郎はさすがに回避したいだろう。だから真砂子の要請に結局は従うだろう。勝算は大いにあると哀れにも真砂子は思った。
「新庄さん、今どこにいらっしゃるの?」
作品名:郊外物語 作家名:安西光彦