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郊外物語

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ところが、事ここに至って、達郎が躍り出てきたのです。達郎はCGを扱うので、毎日パソコンをいじくってきました。その過程で、映像を扱うよりは、文字を扱うほうに興味を覚えたようでした。私は、最初、私の打った原稿の校正をやらせていました。手早く出来るようになったので、口述筆記をさせるようになりました。その後は、シナリオの、小箱の内容だけを口述筆記させて、ディテールは勝手に打たせました。その結果を見て私は驚きました。生き生きと躍動する場面の連続ではありませんか。達郎は、生の事例をどっさりと蓄えていて、簡単な指示だけで、ふさわしい具体例をいくらでも紡ぎだせる人間だったのです。ためしにプロットを自由に立てさせたところ、奇想天外でありながら迫真力満点のものを書きます。達郎は短いあいだ、そう、半年ほど、私の共同執筆者でしたが、彼はすぐに私のくせを飲み込んで、ゴーストを出来るようになりました。もはや私ごときの出る幕ではなくなりました。それ以後私は、書いていません。テレビ局だけでなく全国の百万人以上の視聴者をここ四年間、私はだまし続けてきたのです。
私は十四年前にどうしても自立して生きていかねば、と発奮しましたが、その勢いは、たったこれだけの短い年月しか続かなかった。耐用年数が尽きました。私は、達郎無しでは生きられない寄生虫になってしまいました。それどころか、私は、もはや生きる屍なのかもしれません。
お父さま、助けて!
現在進行中のドラマ「氾濫」も、もちろん達郎が書いています。私達は昨年都心から郊外に引っ越してきて、中年にさしかかったいかにも善良な市民の顔をして生活をし始めました。市民のモデルとして参照し、時には模倣するのに格好のカップルと家族付き合いしています。博多での木賃アパートでの生活とは大違いです。「氾濫」はその新しい環境をもとにして達郎が思いついたドラマだそうです。だそうですというのは、なぜか今回に限って、私に何の相談も無しに彼ひとり閉じこもって書いているからです。あの人の本性がいよいよ表に現れ出てきそうです。逃げ回っていた頃のあの人は、私の努力や懇願にもかかわらず、ちっとも変わりませんでした。その磐石の本性が、ライターという道筋を得て四年たった今、大変身をして、いよいよ流れ出てこようとしています。
作品名:郊外物語 作家名:安西光彦