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郊外物語

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Dさんという背の高い女優さんと仲良しになりました。彼女はときどき東京から島に遊びにいらしてました。彼女の父君は、すでにお亡くなりになっていたけれど、有名な作家です。彼は、晩年、能古島に暮しました。彼女とは、ファザコンについて、岩礁に打ち寄せる白波を見ながら語り合いました。お父さまにはその内容は想像もつかないでしょうね。私がお父さまをなんと思っていたかなんて、お父さまに語ったこともないし、そんなつもりはこれからも毛頭ありません。そんなことを隠していたのかと驚くでしょうから、年寄りにストレスを与えたくないので黙ってますよ。なに、たいしたことではありません。二人で話したのは、あの時、パパに、キスしとけばよかった、とか、そういう程度のこと。
博多に住み着いてから半年ほどたったころから、急に楽な気分になりました。そのころから、ヤクザやチンピラが、私たちを無視し始めたような感じを持つようになりました。達郎に確かめると、玉川上水の件の一年後に、はっきりと、手が動いた、と言いました。なんで早く言ってくれなかったの。どんな手が動いたの。私の詰問に、達郎は、知らんね、としか答えません。私は、図書館に行って電話帳を繰り、飯田周辺の、私の声をよく聞き分けられないぐらいの知り合いに、電話をかけてさぐりを入れました。恐るべきことがわかってきました。飯田の住宅局や、法務局、警察、各種の組合事務所にも電話してしまいました。
お父さまは、工場と自宅の敷地を除く山林と土地すべてを手放しておしまいになった。移譲先は、国分寺一家の系列土地会社でした。現在はゴルフ場と、大きなリゾートホテルと、温泉旅館が出来ていますね。多額の現金も動いたことでしょう。お父さまが申し出たのか、国分寺のおじ様が要求したのか、今でも知りません。しかし、それが手打ちでした。警察の捜索願も取り下げてありました。私は我慢出来ずにお父さまに電話をかけましたよね。お父さまは、玉川の件はカタがついた。そのことはもう口に出すな。お前たちの捜索も、もうしない。しかし、新庄との結婚はどうしても許さない。新庄とは金輪際会うつもりはない。お前の顔も見たくない、生きて私とお前が会う時はお前が新庄と別れた後だ、そうでない場合は、どちらかが相手の死顔と会う、とおっしゃった。
作品名:郊外物語 作家名:安西光彦