郊外物語
テーブルは、太字のL字型になっているリビングダイニングの、折れ曲がった部分においてある。Lの字の縦棒に当たる部分は、左側、つまり南面の、二重ガラスでできた引き戸を隔てて、テラスに通じている。引き戸の内側には緑色の緞子のカーテンが下りている。外は木枯らしの吹く初冬の夜だ。Lの字の横棒にあたる部分の左半分の壁に、薄型六十インチのテレビが張り付いている。テーブルを隔てて水平に一台、ベランダ側の引き戸に接して垂直に一台、三人がけのソファがおいてある。窓側の、テレビに近いほうに義人が坐っている。遠い側には新庄達郎。もうひとつのソファの、新庄の近くに、玲子。その隣りに、今、真砂子が坐ったところだった。玲子と真砂子の背後には、ソファをしきりにして、空間ができている。突き当りの壁は、全面が本棚になっており、その前に円卓とアームチェアーがおかれ、その空間は、読書室になっている。本棚の最上段には、左右にスピーカーがすえられ、真ん中の段の中央にコンポがはめ込んである。音量を抑えて、バッハの平均率クラヴィール集がかかっている。その段の左右は、CDとLPのライブラリーになっている。読書室の北側の壁に、一・五メートル×二メートルの大きさの、ゴーギャンの複製がかけてあるほかは、装飾品の類が一切ない。ゴーギャンは沖縄との連想で、真砂子が気に入っていた。子供達は、土人の絵だ、などとはやしたてるが。もともと真砂子は十代のころは絵描きになりたかったのだ。キッチンと同様に、どの部屋も、壁と天井は黄色に近いクリーム色で、床は毛足の長い緑色のじゅうたんで覆われている。
壁には染みひとつなく、床には塵ひとつ落ちていない。誰に見せても恥ずかしくない、と真砂子は常々自負している。見せるために部屋があるわけではないし、恥ずかしくないようにと手入れをするわけでもないことには気づかない。
「ご苦労様。今日もまた、おいしそうなものばかりね」
玲子が、真砂子に微笑みかけた。