郊外物語
あるときは、私が教材に使うつもりの英字新聞の切れ端が紙バサミからはみ出ているのを見て、?ちょっくら寄らせてもろうた?オバさんが、そげなこと、わざとのごとしてからに、といいます。私がさりげなく見せびらかしている、と思ってしまうんですね。私は稼ぐのに必死で、体裁など構っていられませんでしたのに、周りはこちらの思ってもみなかったことを感じていたのかと、驚きました。彼らの猜疑心や嫉妬心や劣等感を刺激しないように、そこらに置くものや普段の話の内容に、十分気をつけねばならなくなりました。
その人は、それ以前に、あんた、津田塾大学出という噂ばってん、ほんとかいね? そげんな人がこげなとこにおるはずなかろうもん、と確信に満ちた様子で憎々しげに言いました。彼らは、自分の経験したことのないこと、テリトリー外の事情、知らないこと、想像つかないことを聞くと、嘘っ、と平気でいいます。私の貴重な体験や、やっと考え付いたことも、ホラばっかついて、と嫌がられます。せいぜいが、話半分に聞いとこう、とか、嘘か本当か知らんけど、でした。そのたびに彼らの私に対する不信感や侮蔑心が増します。だからといってこちらが黙っていると、高慢で人を馬鹿にしていると罵られます。わずらわしくてなりませんでした。
彼らは何とかアラを探して、自分たちが優位に立とうと、もはや血眼になっているように私には見えました。私は嫉妬されるべき何物も持っていなかった。彼らのほうが、、すでに遥かに優位に立っていました。現実にはこんなことなのよと、こちらの実態を白状していきり立つ彼らを慰めてやりたい衝動に何度も駆られましたよ。



