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郊外物語

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アパートの住人は、私たちを入れて十組いました。八組は夫婦もので、その六組には子供がいます。二組は、通い婚といったところでした。住人たちは、仲良くしてくれ、食べ物や飲み物を持って私達の部屋を訪れました。困ったことがあったらいつでも相談してくれ、と言ってくれました。私が聞き上手なせいなのか、彼らは自分達の一代記をこと細かにしゃべりました。達郎にはなるべくならしゃべらせたくなかったので、私は忙しく対応したものです。みんないい人だと思って私は安堵していたのですが、二ヶ月ほど経ってから、私は不審に思い始めました。
彼らは長居するようになり、勝手に上がってくるようにさえなりました。ヒマやけん、来たとよ、などという者もいます。どうせあんたもヒマやろうけん、と続きます。どうせヒマだろう、とは、随分と人を馬鹿にした言い方です。子供も上がりこむようになり、押入れや冷蔵庫を平気で勝手に開けました。彼らは私達のなりそめを話させようとします。私らに遠慮してもしょうがなかよ、などと言いました。彼らが一代記を聞かせたのは、交換に、私達のそれも聞かせろという条件でした。
彼らはどんどんわがままになってきました。自分達があれこれ持ってきてるんだから、ろくでもないもんは出さないように、という態度が出てきました。私は、なけなしの生活費を切り詰めて、出来る限り振舞ったつもりです。東京風のそばを出したときのことでした。なんですか、これは、といわれたので、しまった、と思いました。こげなもん食いようとね、東京もんは、と言って、コンビニでコンビーフとレタスかなんか買うてきて、パンに挟んで食べたほうがうまかばい、というので、私はふくれっつらを見せないようにして、走ってそれらを買ってくると、言われたとおりのものを作りました。どうぞ、というと、これ、なんですか、とまた聞かれました。なにとおっしゃったって、と呆れていると、いらんですたい、と言います。なるべく御希望に沿うように作ってみましたが、と言うと、たとえばの話で言うたとたい、今食べたかぁと、いつ言うたね?、そげなこともわからんとね、あんたほんとに頭よかと?、と答えます。
作品名:郊外物語 作家名:安西光彦