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郊外物語

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そろそろお金が尽きかけていました。私は、私鉄沿線の駅前にある英会話学校や塾の臨時雇いになろうと面接を繰り返しました。同じく駅前にあるサラ金とこの種の学校の経営者が同じ地上げ屋たちであることを初めて知りました。そういう資本ではないところをやっと見つけて雇ってもらいました。達郎にも働いてもらいたかったのですが、肉体労働しか能がないし、その方面の職につくと見つけられやすいと思いましたので、将来、自立できるようにと、CGの専門学校に通わせました。ところが当人に基礎学力が不足しているので、私は復習に付き合わねばなりませんでした。結婚した亭主を一人前にしようと、どんな女も努力するでしょう。ましてや大きなハンディを持っている男と一緒になった私は、できるだけの手助けをして、もとからやり直してやるくらいの気持ちを持ってもいいんじゃないかと覚悟しました。私自身も、最初っからやり直そうと思ってましたからね。いい気なてめえ勝手の根性をたたき直そうと腹を決めてました。
専門学校のテキストとは別に、小学生用の算数と漢字のドリルをやらせました。なにせ、九九はうろ覚え、漢字はあてずっぽうの読み方しかできません。四七二十四と唱えてましたし、七転八起をしちてんはっき、徒然草をとぜんそうと読んでいました。英語だってアルファベットの読み方からはじめなければなりませんでした。マンガもテレビゲームも勉強の一環としてやらせました。少年少女世界文学全集を私の後について声を出して読ませました。そのせいで、いまだに話し方が翻訳調です。酔っ払い野郎の尻をたたき続けて二年がかりで読み書きそろばんを教え込みました。算数数学は中三終了までしか行きませんでしたが、英語は高一のリーダーの終わりまでを暗唱でき、現代国語は新潮文庫や岩波新書を一人で読めるまでになりました。「とぜんそう」も全段を読破し、老子と荘子も読みました。彼の言語能力の潜在的な高さに私はひそかに驚嘆しました。
私は午前十時に出社し、昼過ぎまで教材開発をし、その後主婦や老人に英会話を教え、さらに、小さな子、中高生と教えていって、最後に戸締りをして帰ります。月曜だけ休みで、毎日十時間以上働きました。帰宅後も家事と近所づきあいと達郎の家庭教師で暇なんぞ全くありません。
作品名:郊外物語 作家名:安西光彦