郊外物語
私達のそれまでの経験から、田舎では目立つ、都会で群衆にまぎれて暮さねば、と思うようになったので、どうせなら出来るだけ大きな都会へ、と思って、十一月に入った頃に博多に行きました。道幅の広い、しゃれた街でした。アジア相手の貿易港といった感じで、神戸より賑わっていました。繁華街では、外国語が飛び交い、皮膚の色の違う人間達がくつろいでいます。私は、籠もるにはここがいいと判断しました。高取というところに、二DKの木賃アパートを月三万二千円で借りて暮し始めました。しかし……。
達郎が壊れ始めました。北海道に渡ったころからアル中気味でした。朝から晩まで飲みっぱなしです。富山のアーケードで、達郎がふらふら酔っ払って歩いていると、地回りが、膝に手をつき腰を落として深々と敬礼をしました。八十ぐらいのおじいさんでした。達郎の、威圧感、存在感、周囲を圧倒するカリスマ性はどこに行っても明らかでした。ヒトゴロシとはそういうものなんでしょうか。チンピラたちが道をあけますもん。ただし、達郎はいつも酔っていて、警戒心が欠如していますので、逃げる私の身としては、いかにも危なっかしく見えて、はらはらしました。なんであんたは目立つような素振りをすんの。えらそうな態度はやめてよね、そんなに酔っ払ってばかりいたら、簡単に罠にかかったり闇討ちにあったりするよ、こっちはお尋ね者なんだから自覚してよね、と言っても、生まれつきだ、しょうがない、などとうそぶいています。



