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郊外物語

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八月中、日本海に浮かぶ絶海の孤島舳倉島に隠れてから、石川京都経由で大阪に行きました。関東系のヤクザが入り込めない大阪、神戸は、潜んで暮すのにはよかろうとの目論見からでした。しかし、三ノ宮で、すれ違ったチンピラが、あっ、と叫んだので、ここもやばいと理解しました。車を買い換えました。神戸淡路を抜けて四国にいきました。淡路島は花とキュウイと瓦工場が目立つところでした。多度津という、駅前がいやに暗い街を通り、山の中に入り込み、祖谷渓谷の民宿にもぐりこみましたが、その土地の長者さんがやってきて、ここは平和な村だ、ここ百年、こそ泥すらいない、あなた方には似合わない、と言い渡しました。土佐の高知の播磨屋橋の近くの旅館にしばらく潜んでいましたが、通報されて、今度は警察が来ました。足摺岬に逃げて、もう、ここから跳び下りてやろうかと思ったけれど、目の前の白い角柱に、ちょっと待て、と書いてあって、電話番号が記してありました。数えてみると、跳び下りて死んでやれ、と逃亡中に思ったのはこれで三度目でした。金剛福寺という八十八カ所めぐりのひとつに挙げられている寺に泊めてもらいました。松山からフェリーで別府に渡りました。私、一晩中船酔いでげろを吐き続けました。吐いたバナナのカスを見ながら、私がカスか、世間がカスか、と思いました。どちらもカスだよねぇ。裏の管理社会、こんな情報系統が、インターネットの世界より遥かに先行して存在し、私たちの生存を脅かしていました。延岡、宮崎と逃げて、霧島の山を越えました。チロルのような素敵なところ。鹿児島も、地中海の漁港のよう。湾が立体的で目が痛くなるほどでしたが、火山灰で私が喘息になり、残念ながら長居出来ませんでした。木の香りが強い人吉を突っ切り、熊本、天草、諫早、雲仙、嬉野、平戸を駆け抜けて、丘の上までつらつらと石畳の坂道が続いているロマンティックな長崎に着きました。長崎はリアス式の長々と奥深くえぐれた港を持ち、岩手の大船渡に港の切れ込みかたが似ていました。そうそう、大船渡の近くでは、和船を海に押し出して遊んだな。達郎が器用に櫓を漕いだ。何百羽のウミネコとカモメが鳴きながら船を中心に渦を描いて宙を舞います。鳥たちに祝福されているのか、非難されているのか、惑いはありましたが、しばらくは夢見心地でした。
作品名:郊外物語 作家名:安西光彦