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郊外物語

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私達は、表社会の警察と裏社会のヤクザと、二つの勢力に追跡される身となりました。どちらが実質的に、私たちの脅威になったかというと、圧倒的に後者でした。仙台では、お城の跡にある東北大学のそばの旅館に潜伏していました。ヤクザは、官庁と大学とジャズ喫茶には近づかない、と聞いていましたから。ところが、二日もすると、旅館の女将から、この土地のお偉いさんが訊いてきた、どうもあんたら、該当するようだから、よそに行ったほうがいい、といわれました。それ以後、どこへ逃げてもそういう調子で、私は頭が狂いそうでした。こんなに緊密な全国的ネットワークはありませんね。昔、ある県で小学生の女の子が行方不明になって捜索願が出され、一時間後という超スピードで保護されたことがありました。その子が、近道をしようとして、道に迷っただけでした。その子の父親は県警の警視でした。父親はみずから捜索願を書き、みずからそれを受理したのです。真相はこうです。彼は捜索願を出すのと同時に土地のヤクザ組織にも娘探しを依頼しました。保護したのはそのヤクザ組織の組員達でした。警察は、初動捜査すらしていないうちのことでした。警察の面目は丸つぶれだし、警視がそんなことをするとは言語道断でしたが、警察のメンツを立てるかわりにその子の父親に対してはおとがめなしでした。この件は相殺、帳消しとなり署内のタブーとなったそうです。その女の子は私の大学時代のサークル仲間の綾ちゃんです。飯田に連れて行ったことがありましたよ。後日談があります。綾ちゃんが大学二年のときに彼女のお父さまがなくなりました。臨終の床で、困ったことが起きたらこの方のところに行け、とおっしゃって、住所と名前を震える手で書かれたそうです。例のヤクザの親分のものでしたそうな。
私達はびくびくおどおどと人目をしのび、レンタカーを神経質にしきりと乗り換えながら、宮古、八戸を抜けて北上しました。私は、もう、切なくなって、陸中海岸の北山崎の断崖から跳び下りてやろうかと思いました。しかし、下から上がって来たウニ漁をおえたトラックが止まり、どんぶり山盛り一杯のウニを五百円で食べさせてもらえると、逃げ延びよう、生き延びようという勇気がわいてきました。苦労は始まったばかりだったので、まだ可愛いものだったんです。
作品名:郊外物語 作家名:安西光彦