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相撲番長

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 実は、俺もケーホーと同じ事を考えていた。一階と二階が同時に、それも丁度十時に電気が消えるなんて、何か意味があるとしか考えられない。ケーホーの言う通り、まずみんな寝たと思って間違い無いだろう。
 幸か不幸か、予想的中。まだ水田の家にいる時、俺の頭の中に浮かんだ質問は〈もしあいつらが出て来なかったら、どうする?〉だった。
「ちょっと俺、煙草買って来ていい?」
 佐藤も同じ事を思ったのか単独行動に走り、急に統制が乱れ始める。何時の間にか、コンビニの前でただだべっているような、或はキャンプの夜のような、そんな状態になり、徒に時間だけが過ぎて行った。緊張感が薄らぎ、足下のシケモクがどんどん増えて行く。
「そう言えばさあ、高木優子東京の私立行くって知ってた?」何気無く水田が言った事に、俺は闇の中、赤面した。
「へーそうなんだ。あいつ頭良いからな」暗い所で良かった。もし明るい場所に居たら、間違い無く動揺バレバレだ。高木優子は、俺と水田の幼馴染みで同級生。お世辞にもお洒落とは言えないが、鼻筋の通った二重の美人で男子の憧れの的だ。ただ、本人は色恋に全く興味無しって感じで髪型は黒髪のオカッパ、スカートの丈は校則にぴったり合わせたような標準、勉強の成績は学年で何時も五番以内。スポーツも万能で、陸上部でハードルの選手。県大会で三位になった記録を持っている。小学校までは、俺達三人は何時も一緒に遊んでいた。三人共、何故かずっと幼稚園からクラスが同じだったからだ。そしてその偶然は、中三になった未だに続いているが、中学に入って俺と水田が不良化してからは、何と無く気持ちの距離が離れてしまった。真面目っ子と不良。今では殆ど、会話する事も無くなった。
「今度は確実にバラバラになっちゃうな」
「そうだな」
 コギャルみたいな女と何人か付き合って、初体験もとっくに済ませた今更になって、俺はちょっと高木優子が気になっていた。いや、本当はちょっとじゃない。小学生の時から、ずっと好きだった。俺の小学校の卒業アルバムは、高木優子の写真が載っていた頁つまり俺のクラスの頁が精子でくっ付いて開けなくなっている。今も、自分の知らない情報を水田が先に知っている事に、俺はかなり嫉妬して、動揺もしている。
 卒業したら、どうなるんだろう。水田の家は金持ちだから偏差値が低い所だったら私立にも入れるだろうけど、母子家庭の俺の家じゃ多分無理だ。きっと県立の馬鹿高校を受けて、落ちたら定時制。どっちにしてもすぐにやめて、黒澤みたいにヤクザの下っ端になる。それがこの街の不良のお決まりコースだ。高木優子はきっと、東京の名門高校からエスカレーター式に名門大学に行って一流企業に就職。こんな街からさっさと出て行って都内の一等地に家を買い、エリートの旦那と賢そうな子供、毛の長い高そうな白い犬と一緒に幸せに暮らすんだろう。シチューとかグラタンとか洒落た食いもんを家族みんなで楽しそうに食ったりして。正月にはハワイ旅行。カツ丼は上。うな丼は松。そんな事を考えている内に、どんどん憂鬱になって来た。
 煙草を買って忍者走りで戻って来た佐藤を、車のヘッドライトが後ろから照らす。ただ真っ暗だった風景が久々に変化して、皆が眩しそうに目を細めた。
 停まった。
 忍者を追い越して走り去ると思っていた黒い高級車は急にヘッドライトを消して減速し、薄暗い街灯の脇に音も無く停まった。それだけの事かと何となく目を逸らせた時、「あっ。早乙女艶子」ケーホーが指差した。
 左ハンドルの車の助手席から暗がりでも高級品だと判る黒紫のドレスを着た女が降り、バイバイの形で右手を三回振った。同時に左手でドアを閉めようとした瞬間、運転席からぬっと手が伸び、再び車内に引き摺り込まれた。
「あれ絶対早乙女艶子だよ」言い終わらない内に、ケーホーが足音を立てずに走り出す。「ほんと?」戻って来たばかりの佐藤が後に続き、俺と水田も腰を上げた。
「うわっメチャクチャちゅーしてるよ」興奮したケーホーが鼻息を吹き出しながら言った。「しかも相手ほら見てっ、外人だよ。あっ乳揉んだっ」
 車から三メートル手前の電柱に隠れて、俺達四人は一部始終を見た。他人のセックスをライブで見るのは、初めてだった。しかも女は有名人。早乙女艶子。元女優で、今は五所ノ関部屋のおかみさんだ。
 おかみさんは凄かった。高級外車は防音がしっかりしているのか或はおかみさんが声を我慢しているのか音こそ漏れては来なかったが、基本的に上になったおかみさんの動きは高級車を激しく揺らした。上下の動きに加えて前後の動き、たまに左右のねじり運動が加わり、外人も堪らず白目を剥いている。あ、よく見ると外人にも見覚えがある。
「あいつ、ベンジャミンじゃね?」スキンヘッド。尻みたいに割れた顎。間違い無い。プロ野球地元球団の助っ人外国人、ベンジャミンだ。確か故障者リストに入って一軍登録を外れたばっかしなのに、これじゃ余計に故障しそうだ。
 二三十分のショーが終わるとおかみさんはあっさりとパンツを穿き、今度は呼び止められる事無く五所ノ関部屋へ消えた。ベンジャミンはぐったりと放心して倒したシートに寝そべったままだ。俺達はこれも生まれて初めて、白人の長いちんちんを生で見た。しかもプロ野球選手で一昨年までメジャーリーガーだった奴の。平常時に戻って萎んだ状態になっても、ベンジャミンのちんちんは特大の白ナマコみたいに垂れ下がっている。あんなに長いちんちんを銜え込んでこねくりまわしたおかみさんを、それを見て改めて凄いと思った。
「やっぱあれかな、糖尿病なのかな、親方。相撲取りって引退してただのデブになったらだいたい糖尿病になって勃たなくなるって言うじゃん」興奮冷めやらぬまま駐車場に戻ったケーホーが、ズボンの上からでもはっきりとモノの形が分かるくらいにちんちんを勃起させながら囁いた。
「なんか可哀想だな親方。自分ちの真ん前であんなんされちゃってさ。不倫つったっけ、こういうのって」そう言う佐藤も勃っている。
「そうだな。でもやっぱ勃たなくなったら男も終わりだな。なんだかんだ言って女もやりたいって事だよ」顎に手を遣って頷く水田も、しっかりと勃起している。
「凄いもん見ちゃったな。写真撮っとけば売れたかもな」俺に至ってはなんと無意識に自分のちんちんを撫でていた。
「そっか、そうだよ写真撮っときゃ売れたよ絶対。畜生、損した」水田は悔しそうに煙草を揉み消し、大の字に寝転がった。それを切っ掛けに皆アスファルトに寝そべり、星の少ない空を見上げる。背中がひんやりとして心地良い。もし何十年かした後で、この駐車場の前を通って、その時もしこのままここにこの駐車場があったら、きっと、今日の事を懐かしく思い出して甘酸っぱい気持ちになるんじゃないか。くだらなくて馬鹿馬鹿しくて意味が無くて、でも滅茶苦茶に楽しい、皆でちんちんを撫でながらそんな会話をしていたら、きっと何時かそういう日が来る気がした。俺達は何時の間にか目的を忘れて馬鹿話に花を咲かせ、最後には「中学出てもずっと仲間でいような」なんて事を口走ったりもしてしまった。
 そんな時は何時も、悩みがすーっと消えて行く。元々悩みなんて無かったんじゃないかってくらいに。
作品名:相撲番長 作家名:新宿鮭