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相撲番長

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 高校も好きな女も、もうどうなってもいいや。

 雀が鳴いて、朝が来た。
 真っ暗だった街が少しずつ茜色になって来て、今日も暑くなりそうな予感がする。と言うか、もう既にちょっと暑い。自分の体からもみんなの体からも汗臭い男の臭いが立ちのぼっている。犬の鳴き声がして体を起こすと、散歩中のプードルが、俺達に向かって狂ったように吠えていた。
「そりゃ怪しいよなあ」真っ白な可愛い犬にまるで似合わないヨレヨレのTシャツを着た中年太りのおっさんが、不審そうにこっちを見ながら通り過ぎて行った。何て事のないただの駐車場に中学生が四人寝っ転がって、傍には同じ数の金属バットが転がっている。吠える犬の気持ちが分からなくも無い。双子みたいに同じ形の青いダンプカーが二台通り過ぎて、黒い排気ガスを撒き散らして行く。朝だ。
「疲れちった。そろそろ帰るか」水田が起き上がって包帯の頭を掻き毟った。「あー痒い」
「ごめん、俺ちょっと立ちションするわ」佐藤も寝ぼけ眼で立ち上がり、「俺も」とケーホーが続く。結局皆で小便をする事になり、どうせならこの駐車場で一番高そうな車にぶっかけようと、黄色いフェアレディZを取り囲んだ。いつもならこんな時、さり気なくちんちんの皮を剥く所だが今はその必要がない、みんなも俺も思いっきり朝勃ちしているからだ。若さの詰まったつやつやのちんちんは上方に反り返り、斜め上に向かって迸る小便のラインがZの窓ガラスを激しく叩いた。
「あー腹減った」「俺も」「風呂入りてー」「分かる」それぞれがちんちんを閉まってバットを拾い、駐車場を出ようとしたその時、
 目の前ででかい影が動いた。
「うわあ」
 肩にバットを担いで先頭を歩いていたケーホーが、素早く一番後ろに隠れ込む。
 奴だ。
 俺達の目の前で、アニメ目のデブが、玄関先に水を撒いている。別の気配がして見上げると、二階のベランダで目の細い方のデブがブリーフを取り込んでいる。
 いたー。
 どーするー。
「いくぞおおおおおおおおお」
 雄叫びと共に水田がバットを構えて走り出し、俺も慌てて後に続いた。考えている暇は無い。水田、お前は男だ。
「くおうらああああああああ」
 俺も男だ。
 俺達に気付いたアニメ目デブが、丸い目を余計丸くして柄杓を構えた。水田がバットを振り下ろす。アニメ目がバケツを放り投げ、バットがそれを叩き割った。飛び散った水飛沫が俺達を濡らす。水田は二打目を振り下ろし、アニメ目が柄杓で受ける。柄杓は真っ二つに折れ、アニメ目の額に、バットの先が軽くヒットした。俺は右横から脇腹を狙う。
「死ねやあああああああああ」
 バットの芯が、デブの肉の中にめり込んで行く。弾力に負けないように、俺は歯を食いしばった。
「はふん」
 変な声と鼻息を出して、デブの反撃が始まる。俺達の攻撃は、やはり効いていないのか。素早い摺り足で水田との距離を詰めたアニメ目は、折れた柄杓を水田の脇腹に突き刺した。
「くっ」
 頭に包帯を巻いた水田の横っ腹に、刺さった柄杓がぶら下がっている。デブはそのまま柄杓の下のベルトを掴み、右手一本で水田を投げ飛ばした。大柄な水田が、まるで風船人形のように飛んで行った。俺は結果として後ろに回り込む事になり、完全にアニメ目の死角に入った。佐藤は剣道のような構えでバットを握ったまま、何も出来ないで固まっている。当然ながら、ケーホーは見当たらない。俺はバットを上段に構え、空中に飛び上がった。
 ラッキー。
 もらった。
 今日のヒーローは、俺だ。
 ランキング変更。俺一番。水田二番。
 金属バットを真っすぐに振り下ろす。ヒットする直前に振り返ったアニメ目が、驚愕に目を見開き、俺にはそれがスローモーションに見えた。
 お前、終了。
 と思ったその時、玄関から物凄い声がした。
「こぉらぁーっっっっっっっっっ」
 同時に、鈍い音と確かな感触がして、金属バットがアニメ目の頭蓋を捉えた。おっさんの声に驚いた分フルスイングとはいかなかったが、デブの巨体は崩れ落ち、俯せになって気絶した。
 蝉も雀も烏も鳴き止んで、無音。
 おっさんの迫力に全てがストップ。おっさんの声は腹に響く、物凄い声だった。
「お前ら、何やってんだ」
 逃げられない。おっさんを見ている俺。俺を見ているおっさん。ばっちり目が合ってしまい、何故かその目を逸らせない。テレビで観た事がある。あいつは元大関、五所ノ関親方だ。
 玄関の奥から、目の細い方のデブが現れた。その後、ちょんまげ。ちょんまげ、ちょんまげ。ちょんまげ。ちょんまげの相撲取りが四人、次々と出て来て、親方を先頭にした三角形の集団が出来た。ちょんまげが頭に付けている整髪料の匂いだろうか、集団からピーナツバターみたいないい香りが漂って来る。
 佐藤が構えていたバットを下ろし、爽やかな愛想笑いを浮かべた。水田は腹に柄杓が刺さったまま、上半身だけ起き上がって呆然としている。何時の間にか、ちょんまげの数も十人くらいに増えている。
 そして、親方から、みんなの視線が移った。
 もう一つのでかい影。
 玄関から、新たなちょんまげがのっそりと現れた。
 外人じゃん。
 身長二メートルの白人力士。髪の毛は黒いが、体中に生えている無駄毛は朝日を浴びて金色に光っている。青緑の瞳。俺の腿より、太い腕。今まで感じた事の無いオーラに、俺はあろう事かうっとりしてしまった。本物は違う。あいつもテレビで観た事がある。最近大関に昇進したロシア出身の怪物。露西山だ。他の相撲取りよりも頭一つでかい露西山が、虫を見るような目で、俺を見下ろしている。
 俺はバットを落とした。同じ人間とは思えない。あんな化け物に、勝てる訳が無い。
 金属バットがカランと涼しい音を立て、それをきっかけに、また五月蝿く蝉が鳴き始めた。



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作品名:相撲番長 作家名:新宿鮭