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ふたりの言葉が届く距離

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 俺は雨を被ったままの白井をシャワー室へ半ば強引に押し込んだ。
 濡れたワンピースや下着は洗濯機へと投げ入れ、仕方ないので理奈が置いていった下着やスウェットを用意する。

「あなたには私を選んで欲しい」

 彼女は確かにそう言った。

 だから、シャワーを終えた白井が一糸纏わぬ姿で俺の前に立っても驚きはしなかった。

 よほど自信があるのか、どこも隠そうとはせずに俺を正面から見据えている。
 少女のような瑞々しさを失わない理奈とは対照的に、大人の女として完成された曲線を持つ裸身。
 雪白の肌と黒い茂み。歩くたびに揺れる双乳。深くくびれたウエストに適度に引き締まった量感のある太腿。
 これだけ艶美な女体を前にして欲情しない男は不能だろう。

 以前、彼女が自分のことを「淫蕩な女」と言っていたのを思い出す。
 もしかしたら、俺の家に突然現れたあの時から今日までの出来事は、全て白井のシナリオ通りだったのではないか。そんな馬鹿げた妄想が頭をもたげる。

 狭い部屋の中で彼女が進めば、すぐに肌が触れ合うほどの距離になった。
「……なんのつもりだ?」
 俺が努めて静かな声で問うと、彼女は俺を見上げて再び告げる。
「もう、私にはあなたしかいないの」

 俺の親友だった白井麻由美はもうそこにはいない。いや、初めからそんな関係は存在していなかったのかも知れない。

 今ここにいるのは、俺だけを求めている女だった。

 俺は乱暴に彼女の顔を引き寄せて唇を貪る。甘い吐息を零す暇を与えないくらい執拗に。怒りと悲しみと劣情を込めて。

 ねっとりと潤んだ黒い瞳を見つめながら少し汗ばんだ白肌に触れた時、理奈との記憶は本当に過去のものとなる。


 それは分かっていた。