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ふたりの言葉が届く距離

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 白井と話してから、もう時計の長針が二周しようとしていた。
 あの後すぐに理奈へ連絡したのではないのだろうか?
 それとも、理奈が電話に出なかったのか?
 
 そんなことをグルグルと考えながら、ただ携帯を睨み続けている愚かな男。

 どんな状況であろうとも、白井がなんの連絡もしてこないというのは異常だ。
 携帯を手に取り、こちらから掛けてみる。
 
『もしもし』
「ああ、今大丈夫か?」
『ちょっと待って、もうすぐ着くから』
「えっ……?」

 その言葉通り、3分も経たないうちに彼女はドアを開けて、俺の目の前に現われた。
 知らぬ間に降り出していた雨で、その全身を濡らしている。

 驚きながらもタオルを取りに行こうとする俺の腕を白井が掴む。

「理奈は……藤宮を選んだわ」
 俯いたまま絞り出すような声でそう告げた。
 その手が震えている。
「……そうか。悪かったな、嫌な役回りをさせてしまって」
 俺は自分でも驚くほどに彼女の言葉を冷静に受け止めていた。
 そもそも、理奈への電話を白井に頼んだ時点で、俺には恋人としての資格など無かったんだ。

 今回のことで白井と理奈の友情まで壊れてしまうかも知れない。
 本当なら彼女は中立的な立場でいられたのに。

「タオル……持ってくるよ」
 まだ白井は俺の腕を掴んでいた。
「いいわ……そんなの」
 急に倒れ込むように身体を預けてきた彼女に押され、俺は腰をついてしまう。
「大丈夫か?」と言おうとした俺の口は彼女の唇によって塞がれていた。
 柔らかな感触と甘い息遣いに誘惑されながらも、その舌が侵入してくる前に両肩を持って引き剥がす。
「……どうしたんだ?」
「あなたには私を選んで欲しい」

 雨によって頬に張り付いた長く艶やかな黒髪。

 しかし、彼女の頬を濡らしているのは雨だけではなかった。