ふたりの言葉が届く距離
理奈の小説が新人賞を受賞した時は嬉しかった。
たとえ名前も聞いたことがないようなマイナーな賞であっても、泣きながら喜んでいる彼女を見ているだけで幸せだった。
プロとして活動する為には東京に行かなければならないと宣言された時も応援する気持ちでいた。
それが自分の本心だと思っていた。実際、最初はそうだったのだろう。
しかし、それはいつの間にか嘘になっていた。
本当は東京なんかに行かせたくはなかった。
ずっと俺の傍にいて欲しかった。
彼女が俺より小説を選んだことが悔しかった。
俺以外の男に心を許している理奈が許せなかった。
そこには利己的な独占欲しかなかったのかも知れない。
もともと俺には彼女から愛される資格なんてなかったのかも知れない。
きっと、その歪みは理奈にも伝わってしまっただろう。
だからこそ、彼女はあの言葉を最後に電話を切ったんだ。
望まない結論に至るのを避けるように、俺は足早に前方の携帯ショップへと向かっていった。
作品名:ふたりの言葉が届く距離 作家名:大橋零人