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ふたりの言葉が届く距離

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「理奈……」

 夜道で立ち止まった俺が彼女の名を呼ぶ。

『ずっと連絡しなくて……ごめんね』
「いいよ。大切なことだから、ちゃんと考えてから答えてくれた方が嬉しい」
『…………』

 重い沈黙に嫌な未来を予測してしまう。

『……わたしまだ結婚とか考えられない』

 その未来はすぐに現実となった。

「まだって……いつならいいんだ?」
『……分からない。だけど、』
「お前が小説を辞めた時か?」
『…………』
「小説なんてどこでも書けるだろう!?」

 自分が理不尽なことを言っているのは頭の片隅で理解している。
 だが、この縋りつくような暴走を抑えることは出来なかった。

「俺より小説が大切なんだな」

 黙っている理奈にさらに醜い言葉をぶつけてしまう。

『そうじゃないッ……わたしだって悩んだのよ』
「最初から答えは決まってたんだろ」
『違うよッ。色々仕事の都合もあるから、相談して……まだ結婚を考える時期じゃないって、そう思ったの』
「相談……? 誰に?」
『……編集社の人』
「だからッ、誰だよ!」

 聞きたくない名前を必死に言わせようとしている自分を呪う。