ふたりの言葉が届く距離
『……藤宮さんよ』
「なんで俺達のことを勝手に相談するんだ!? あんなヤツ信用できるわけないだろ!」
俺はもう怒鳴っていた。
『そんな言い方しないで!』
理奈も声を荒げる。
「お前はあの男に騙されてるんだよ!」
『……藤宮さんはわたしのことを心配してくれてるの。わたしが助けて欲しい時に傍にいてくれるの』
「…………」
白井は言っていた。
「理奈は藤宮さんを頼っているみたい」と。「なるべく早く行った方がいい」と。
東京に行った彼女は気づいていたんだ。
「そういうことか……お前が一番大切なのはそいつなんだな」
『なに言ってるの……?』
「違うんなら、あの男とはもう会わないでくれ」
『…………』
永遠とも思える沈黙の後で聞こえてきた彼女の言葉。
『藤宮さんは必要な人なの』
それが最後の言葉。
混沌とした感情の中で俺は通話の切れたソレを振り上げる。
アスファルトに叩きつけられた携帯の破壊音が夜道に響く。
たとえ理奈が連絡してきたとしても、もうその声は俺まで届かない。
そんな現実を示す残骸をただ茫然と見下ろしていた。
作品名:ふたりの言葉が届く距離 作家名:大橋零人