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ふたりの言葉が届く距離

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 生徒の家庭訪問が終わって自宅へ帰ると、先週の小テストの採点をし、生徒の理解レベルを確認しながら次の授業で使うプリントを作成していく。

 夕飯時になってコンビニ弁当を温めようとしていると携帯が鳴った。
 急いで手に取って見るが、そこに理奈の名前は無かった。

『理奈とはちゃんと仲直りできた?』
 白井の明るい声が遠く感じる。
「ああ、大丈夫だよ」
 プロポーズの件は言わなかった。
 まだ結果も出ていないことを言っても仕方ない。
 たぶん、彼女から悲観的な言葉を言われるのが怖かったのだろう。

『それで? 東京に行く予定とかは決まっているの?』
「いや……まだ相談中なんだ」
『阿部くん、なるべく早く行った方がいいよ』
 急に声のトーンが変わった気がして、なぜか背中がゾクリとする。
「理奈が仕事のスケジュールを調整しているから、もうすぐ連絡が来ると思う」
『そう……それならいいんだけど。あのコもいろいろ悩んでいるみたいだから、早く直接会って話してあげた方がいいよ』
「そうだな」
『理奈が本当に頼りにしているのは君なんだから』
「ああ……分かってる」

 その後、少し話をして、白井が「がんばってね」と通話を切る。
 しばらく立ちつくしながら、俺は彼女の言葉を反芻していた。