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ふたりの言葉が届く距離

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 俺も似たような境遇だが、母親の記憶がほとんど無いから“夫婦”に対して理奈ほどの明確なイメージは持っていないと思う。
 俺にとっての“親”は父だけだった。
 典型的な仕事人間である父が幼い息子を育てていくのは大変だったろう。
 職場ではかなり有能のようだったけれど、家では本当に不器用な人だった。
 思春期の頃はイラついた時もあったが、その気持ちを表に出さないように努めた。
 自分の存在が父の人生の重荷になっていることを知っていたから。

 だから、父の葬式の時には目に涙を浮かべた。
 ずっと心に抱いてきた、憐れみにも似た感謝の気持ちを込めて。

 号泣はしなかった。号泣していたのは俺の隣にずっと居てくれた理奈だった。
 彼女と付き合ってから半年後くらいの頃だったから、父親に会わせたことなど一度もなかった。
 それなのに、一緒にいた白井が「あなたがそんなに泣いていてどうするのよ」とたしなめるくらい大粒の涙を流し続けていた。

 きっと、彼女は俺の代わりに泣いてくれているのだろう。
 そう思った。
 どこか壊れてしまっている俺の心の代わりに、理奈が自分の心を震わせてくれているように感じた。

 彼女は家族愛に絶望しているんじゃない。ずっと求め続けていたんだ。
 だから、俺が彼女の家族になりたかった。