ふたりの言葉が届く距離
『…………』
「…………」
俺が自分の言葉に驚いていたように、理奈も驚いていた。
『結婚……?』
まだ彼女の声には戸惑いが感じられる。
しかし、俺はもう前に進むしかない。決して軽い思いつきの言葉なんかじゃない。ずっと前から考えていた。
ただ、これまでは二人の関係を変えてしまうことに躊躇していたんだ。
「結婚したいんだ」
『…………』
俺の言葉に理奈は再び沈黙で応える。
『……小説家を、辞めろってこと?』
やっと聞こえてきたのは、そんな言葉。
「いや、違うよ。そんなこと言ってない」
『…………』
「……嫌なのか?」
『ううん……そうじゃない』
「だったら……」
『…………』
なぜ、こんなにも空気が重いんだ。なぜ、こんなにも息苦しいんだ。
俺は間違ったことを言っているのか?
白井の結婚式で見た彼女の笑みが歪んでいく。
『少し……考えさせて』
それが彼女の答えだった。
作品名:ふたりの言葉が届く距離 作家名:大橋零人