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ホロウ・ヒル (1)

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 満月の夜。とある山奥の沼から、ひとつの人影が泥水をまき散らして岸辺にたどり着いた。
「くそ!口の中まで泥だらけだ!」
 悪態をつきつつ、唾を吐く。垂れてくる泥水を掻き上げ、そこら辺の草になすりつけるが気休めにしかならない。
「まったく、殺したあげく死体を沼に投げ込むったあどういう了見だ。生き返るこっちの身にもなれってもんだ」
 生き返る方が問題だと思うのだが、そんなのお構いなしで男はぶつぶつと文句を言いながら身にこびりついた泥を掻き捨てる。
 ようやく目鼻立ちがはっきりしてきたとき、蛍のような小さな光がちらちらと男の周りに飛びはね始めた。
「おう。すまねえが、どこか水があるところを教えてくれないか……? ああ、そうか見つかったか。はいはい、わかってるよ」
 男の返事に満足したのか、小さな光はぐるりと男の周りを一周した後、勢いよく空を飛んでいった。
「だから、川か水の場所って…… 無視かよ!」
 なんだよ人をこき使うだけ使いやがって、これだがら妖精ってやつは… などど文句を言いながら月明かりを頼りに、男は草をかき分け人家を求めて歩き始めた。
「とりあえず水と……食い物……酒と女がいたら最高!」
 欲望丸出しの台詞を聞き、ため息をつく者は月以外誰もいなかった。


作品名:ホロウ・ヒル (1) 作家名:asimoto