ホロウ・ヒル (1)
旅立ち
右手を強く握ると、手の中の生き物が苦しそうな悲鳴をあげた。
身をねじり苦痛から逃れようとする姿は、陸に引き上げられた魚のようだとウーゴは思った。
「女王の手先か……」
ひゅうひゅうと風が通り抜けたかのような声で呟くと、苦し紛れにウーゴの手を噛みつく妖精の小さな頭を掴み、無造作に首を捩った。
殺した妖精を草むらに捨てると、ウーゴはロベリアの街が一番よく見える丘の岩に腰掛けた。
石の壁に守られたロベリアの街はごちゃごちゃと建物が建ち、人間が苦しいぐらい密集して暮らしていた。優美さはないが、欲や貧困やほこり臭い血の臭いがしてウーゴは気に入っていた。
何時間か前に、ディートリヒの配下の者がこのロベリアに入ったらしい。
気に入っている街に、よそ者が我が物顔で進入するのは面白くないが、この先のお楽しみの為なら仕方ない。
「侯爵と女王、勝つのはどちらかな」
ウーゴは強くなった風から身を守るように、所々血がにじんだマントをきつく身に巻き付けると、眼下のロベリアの街を見つめた。
作品名:ホロウ・ヒル (1) 作家名:asimoto