恐怖の女
「で、どーなったんだよ? 女が帰らなくて、メグミちゃんと鉢合わせでもしたのか?」
「……その通りだ」
2杯目のビールをぐびっと飲みながら、蚊の鳴くような小さな声で答える。
「災難だったな」
「ああ。災難だったよ」
「でも誤解だろ? メグミちゃん、ちゃんと話したら分かってくれるんじゃね?」
「無理だろうな」
「なんで?」
「肉じゃが女がさ、メグミの前で俺に乗っかってきたんだよ。服脱ぎながらな」
「ブフォッ!」
目の前の男が盛大にビールを噴き出したおかげで、俺の顔は今ビールまみれだ。
「す、すまん!」
「いや、大丈夫だ」
そう、大丈夫だ。これ位なんて事は無い。ついさっき起こった肉じゃが女襲来に比べたら、些細な事だ。いや、些細過ぎる事だ。
「そ……それで?」
なんでちょっとニヤニヤしてやがんだ、このヤローーー。
「キスされた」
「ブフォッ!」
再び、ビール。
「す、すまん!」
「いや、いい。だがこの先も噴き出すだろうから、飲むのはちょっとストップしろ」
「あ、ああ」
親友の不幸を笑った男は、それでもなんとか真摯な顔つきを作ると、ジョッキから手を離した。
「で? 振り払ったりしなかったのか?」
「した」
「じゃあ」
「でも出来なかった。だってあの女、どー少なく見積もっても80Kgはあるんだよ、体重」
「ブフォッ!」
うん、ビールを飲ませていなかったのは正解だったな。
「そ、その後は?」
「ベロンベロン舐めまわされた。俺、なんか意識が遠のいちゃってさ。そしたら肉じゃが女が言ったんだよ。『ほら、私にメロメロ! あんたなんか用済み! 帰んなさいよーーーーっ!』って、メグミちゃんにさ……うっ……くぅっ……っ……」
その後の事はもう語れなかった。俺は号泣していた。愛していたんだ、メグミ。なのになんで……。あんな女のせいで……。
「とんでもない目にあったな…」
親友の呟きが、悲しみに支配された俺の脳に届いた。
とんでもない所じゃねぇ。化け物に襲われたんだ、俺は。
「飲もう。タケシ」
「うっ……うぐ……っ」
親友に支えられて、俺は朝まで飲みつぶれた。