ブスな心が恋してる!貴方がいるから・・・(2)
「ごめん!」「カコ、ゴメン!許して!」
「きっと、大丈夫だから・・・」
いつも、自分がそばにいてあげる事が出来ない事を気にしていて、心配をしている事が、私には良く分かっていた。
(二十九)
純ちゃんは、予定された取材期間が長くなる事で日本への帰国が今、予定する事が出
来ない!、その事をどうしてもカコには話せずに辛い日々を、過ごしながらも、その
事を周りの人たちには気づかれないように、仕事に集中するしかなかった。
私は純ちゃんからの遠く離れて伝わり来る電話の声が聴き、純ちゃんのその声を聴く
だけでも、勇気がもらえているような気がして嬉しかった。
純ちゃんの為、いや、私自身が少しでも健康な体になり永く生きていたい!
そのためにも一日でも早く、手術をしなければと思い、手術日を決めたけれど、いざ
となると、今まで、両親へ心配させたくない為に言えなかった事実を伝え、やはり両
親はショックが大きくて、オロオロするばかりだったけれど、私は手術の前にしてお
く事が多い、いろんな雑用があった。
もしもの時に、純ちゃんに迷惑がかからないように、純ちゃんとの繋がりを消す努力
も必要だった!
担当医は、カコの幼い頃からの長い付き合いから、手術日をカコに優先的に組んでく
れてはいても、やはり、ひと月先まで手術スケジュールは一杯で、カコの手術は出来
なかった。
今は、それほどまでに、乳がんの患者が多いということなのだろう、担当医は、無表情、無感情に言った!
「君よりも、もっと、深刻な患者さんがいる!」
「でも、君はまだ、手術で治せる時期なのだから!」
「まだ、不幸だとは思わず!」
「あまり、深刻に考えないように!」
そう、言ってはくれるが、私は、何を言われても、気分が晴れる事は無かった。
「ただ、純ちゃんに、逢いたい!」
「無理だとわかっていても、心はわがままになる!」
「時には、行き交う見知らぬ人にまで、怒りの眼差しを向けてしまう・・・」
今の体の状態は、もう、右の肩に重い石を乗せているように腕が重くてあがらない、
時には、耐えがたい痛みが背中を突き抜けるような感覚で暴れているような・・・
私の場合、痛みが激しい!、私の知る知識で、不確かな事だが、乳がんは、殆どの人
が痛みがないために、気づかない事が多いのだと聞くが、私はもう10年以上前から
気になっていた、不快感と痛みがあった。
けれど、純ちゃんの仕事の事や純ちゃんからのプロポーズが嬉しくて、自分の体の事
は考えや思いから意識的に遠ざけていたのかもしれない!
それは女として、純ちゃんから感じる熱い眼差しの恋する想いが幸せすぎたから・・・
(三十)
私には、純ちゃんがあまりにも大きな存在であり、ある意味では私のすべてのような
気もしていたから、確かに、純ちゃんは、ハリウッド映画に出演した事で、少しだけ、
純ちゃんは自分自身が持つ価値感や性格が変化した気もするが、本質的には変わって
いないと思いたい!
前のように頻繁に気やすくは逢えないけれど、私を変わりなく大切に想ってくれてい
る事が何より感じているし、ただ、今は、あまりの忙しさに、純ちゃん自身をその時
間の流れに飲み込まれまいと必死で自分の居場所を確保している。
自分をその場所に馴染ませる努力をして、今までには考えていなかった事でも、純ち
ゃんの信じる道の中のひとつなのだと思えるように少しだけ、気持ちや物の見方の巾
を広げている時期なのだろう・・・
そんな純ちゃんにとって、今は一番大切な時期なのに、私の事を思いながら、日々の
仕事を頑張っているだろうと思っただけで、私は苦しかった。
やはり、病気の事は伝えるべきではなかったのだ、後悔の気持ちが大きくなって行った。
入院の日が近づいて来たある日、突然、純ちゃんが私の目の前に立っていた。
私は、夢の中で純ちゃんに逢えたのだと錯覚していた、数日前から、風邪の症状があり、熱が三十八度五分ほどある、私は平熱が低く三十五度くらいだから、やはり体が辛くて、
家で寝ていたもつねに夢を見ているような現実離れした状態が続いていた。
私の部屋のベットの脇で純ちゃんは黙って、私の顔をみていてびっくりした。
そして、いきなり、私を抱きしめてくれた!
「どうしても、カコの顔が見たくて、ちょっとだけ、帰ってきた!」
そう言って、又、私を抱きしめた。
その時に聞こえてきた、場違いな声!家の脇の路地を行く、今年はじめて聞く・・・
「焼き芋~、焼き芋~、や~き~い~も、美味しいよ~」
「なんと場違いな、やきいも屋さんだこと!」
母がいらだつように、私たちの事を気遣いながら言ってるのが聴こえた。
我が家は、小さな住まいだから、外の物音が良く聞こえてしまう!
私が元気な時であれば、母は喜び勇んですぐに飛んで行って買うのがいつものこの時
期の行事だ!、その事を焼き芋やさんは覚えていて、少し大きな声を出して、伝えた
かったのでしょう。
そんな、外の風景も気づかないように、純ちゃんは私を抱きしめて・・・
どうしても君に逢いたくて、今回のアラスカの取材企画の打ち合わせを、急ぎつくって、二日だけ戻って来たと言った。
純ちゃんは、自分のおでこを、私のおでこにつけてみて!
「カコ、やっぱり、熱があるんだね!」
「僕の顔を見て、急に熱が出たのかな・・・」
純ちゃんは無理にジョークを言っては、少しでも私に心配な気持ちを見せないように
純ちゃんのオーバァーな仕草が夢の中で観ているような気もして可笑しかったし、嬉
しかった・・・
私の熱い体は、純ちゃんの冷えた、冷たい頬がとても気持ちが良い感触・・・
私はながい夢を見ているように、純ちゃんの幻を見ているような・・・
(三十一)
純ちゃんは、つぶやくように言った!
「日本を離れていると、季節感が分からなくなるな~」
少し照れながら、体調が悪い私をきつく抱きしめた事が、気まずく思ったようで・・・
「もう、焼き芋やさんが来る季節なんだね!」
「カコ、おいも、食べてみる!」
突拍子もなく、照れ隠しのように、そう純ちゃんがすすめてくれると、私は不思議に、なんとなく、食べたいような気がした。
私はもう何日も、あまり、食欲がなくて、口の中がかさつき、食べ物の味がしない、
ただ苦味があるだけで食べ物が喉を通らなくて困っていた。
私が返事をする間もなく、部屋を出て行ったが、母が直ぐに気付き!
「もう、買いに行っても、間に合わないから・・・」
玄関で、止められたと言って、私の部屋に戻って来た。
「アラスカはもう雪が降る日もあるけど!」
「8月の末になったばかりだから、日本はまだ夏だったね!」
「ここの焼き芋やさんは、変な時期に来るんだね!」
確かに、世間一般的では、この時期に焼き芋屋さんは似合わないけれど、なぜか、こ
の土地、我が家では、不思議な事ではなかった。
純ちゃんは、突然、仕事の話をはじめた、「カリブーやビックベアー(グリズリー)」
にすぐ近くで遭遇したよ!、しかも何度もだよ!
そうかと思うと、明日、一日だけ何もしなくていい時間があるから、何処か、行きた
い所につれて行ってあげる!
「何処にする!」
私は今、外出が出来る状態でない事を純ちゃんはわかっていながらも私の為に何か役
作品名:ブスな心が恋してる!貴方がいるから・・・(2) 作家名:ちょごり