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ブスな心が恋してる!貴方がいるから・・・(2)

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いつも、ドクターにはそんな風に言われては、痛さと不安に耐えて来たのだが・・・

(二十七)
純ちゃんとの恋!、純ちゃんに愛されている!、その想いが、私の体に変化が現わし
てくれていた、以前の私の体調を考えた時、私は不思議なほど、元気になれたと思っ
ていた。
とても気分の良い日が多くて、胸の痛みもさほど気にならなかった事も事実だった。
けれど、ある日、とても胸が苦しくて、痛さが今までとは違うように感じて、先日、
純ちゃんにも、家族にも、誰にも秘密で、胸の検査をして、分かった事は、乳がんで
ある事を診断された。
純ちゃんがハリウッドから帰って、逢いたい想いと不安がごちゃ混ぜの揺れ動く中で、過ごしていても、純ちゃんへの想いが強い分だけ胸の痛さにも耐えられたし、乳がん
と診断された事も忘れられた気がしていた。
純ちゃんのアラスカ行きを見送った後の病院で改めて精密検査をして、その結果をき
く私は、担当医の説明をまるで、他人事のように、何の感情も無いままに聞き、ドク
ターの言葉だけが自分の体を通り抜けて行くような気がしていた。
これから、自分の身に起きる、重大な事だとは、すこしも考えが行かなかった気がする!
ましてや、純ちゃんはハリウッドから日本へ帰国して、突然、注目された忙しい身に
なり、世間から見られる特別な存在になって、その事が、少なからず、私は行動や感
情が制限された日々がつづいて、自分の体の事を考えないように、その不安を遠ざけ
ていた気がする。
今、私はたったひとり!、取り残された気持ちと、純ちゃんのいる世界が、あまりに
も遠くなってしまったように思えて、むしろ、病気の事よりも、純ちゃんとの遠く離
れてしまったと感じる隔たりの大きさが悲しかった。
幸いにも、まだ乳がんは、手術によって、治せると医師は言ったけれど、私は、今、
自分の中で時間が止まってしまった気がする、なぜか、病気の事は深刻に考えられず、悩む事もせず、この乳がんと言う病気は自然な状態で何処かに消えてしまうとさえ思
えるのだった。
純ちゃんは、アンカレジやフェアバンクスに滞在している時だけ、電話してきた!
『ハーイ、ハニー、元気にしているのかな?』
かなり、興奮しているのか、とんでもなく、上機嫌で話す声が弾んでいた!
いつもながら、一方的に話しては、私の声が聞きたいから、何か言って!と・・・
でも、いつだって、純ちゃんは、自分が伝えたい事がたくさんあるのよね!、仕事で
の感動が大きくて・・・
私は益々、寂しさと不安が募るばかり・・・
『私!純ちゃんにとても逢いたいの!』
『今すぐに、飛んで、逢いに行きたいの!』
そう伝えたいけれど、言葉が体のどこかで固まってしまったように出てこなくて悲し
かった。
だから、私の口から出る言葉、純ちゃんに伝える言葉は、無理に強がって、元気なふ
りをする!ぎこちないまでに弱さを悟られまいと・・・
「私は益々元気で、もっと、健康になる為にね!」
「ビューティー、ヨガを始めたのよ!」
「純ちゃんがアラスカから、帰国できる頃にはね!」
「見違っちゃうほど、綺麗になっているわ~」
「成田で逢った時、驚かないでね!」
そんな心にも無い嘘を、声を弾ませて言いながら、突然涙が流れて止まらなくなって・・・
純ちゃんは、私との電話を切ってから、どんなふうに感じたかしら?今は純ちゃんに
とって、すべてが大切な時、純ちゃんに絶対、私の病気の事を気づかれないようにし
なくてはいけないのだから!
純ちゃんの仕事に余計な煩わしさがあってはいけない!今が一番の勝負の時です
もの・・・
けれど、私の胸の痛みは激しく、意識さえもが薄れて行く・
見知らぬ街で私は倒れても、なお、純ちゃんのあの微笑に逢いたい!!!

「悲しい愛」
貴方の瞳に映る愛は
こんな悲しい愛でしょうか
あの微笑に酔いしれたあの頃
あの微笑に酔いしれたあの頃
ただ愛してると言って
貴方がいつもそばにいてくれた頃
運命は残酷に静かに密やかに
悲しい愛をもって来る
ただ貴方に逢いたくて

(二十八)
アラスカと日本、純ちゃんと私は遠く離れた場所で、日常を必死で生きていた。
何度かの純ちゃんからの電話での会話で、私は、感の鋭い純ちゃんだから、私に何か変化
があった事を感づいていると思った!
私はもうこれ以上、私は乳がんになってしまい、手術が必要な事を隠してはおけないと思
い決心して、ある日の純ちゃんの電話で打ち明けた!
「私の体に!乳がんが棲みついちゃったの!!!」
「だから、少しだけ、手術が必要なそうなの!!!」
だけど、ほんの初期で、乳がんの組織だけを取り除く、手術をする事になったと純ちゃん
にストレートに伝えたけれど、言葉ひとつ、ひとつが、まとまりの無いぎこちなさを隠せ
なかった、果たして、純ちゃんはどんな風に受け止めたのだろうか・・・
純ちゃんは、しばらく、黙ったまま、電話の向こうで、微かに聞こえた!うめき声をあげ
ているように私には感じた!!!
そして、純ちゃんは、深呼吸してから・・・
「カコ、ゴメンね!」
「僕がそばにいてあげられなくて!」
「カコの、体の事、気にしてないよ!」
「直ぐに、又、元気になるものね!」
「今は、素晴らしい医学の発達で乳がんもそれほど怖くないのだよ!」
「初期だと言う事は、ほんのすこし、傷をつけるだけ!」
「でもね、もしもだよ!」
「もしも、片方の胸があれば!」
「僕は、充分だよ!・・・」
「僕は、カコが元気になってくれるほうが嬉しいから・・・」
「僕は、カコのどんな姿も大好きだよ!」
「今すぐに、カコのそばへ行きたいよ!」
そう言いながら、純ちゃんは、言葉にならない、言葉で、何かを言いながら・・・
「今、とにかく、少しでも、早く帰れるように、仕事を頑張るからね!」
「僕を、待っていて・・・」
そう言うのがせいいっぱいの、苦しそうで辛そうな、純ちゃんの息づかいが聴こえた。
まだ、アラスカでの取材が半分も進んでいない状態の、この時期に、純ちゃんに知ら
せる事がどれほどの苦痛になる事か!、わかっていながらも、私の心が不安で純ちゃ
んにしがみつきたかった。
私は早急に手術をしなくていけない!手術日も決まっているために、黙って手術をす
る事が純ちゃんへの裏切りになるような気にもなっていたし、辛すぎて話さずにはい
られないほど、私の心が弱くなっていた。
純輔は、予定されたアラスカでの取材期間が伸びて、帰国が遅くなる事を、カコには
伝える事が出来なかった。
仕事を優先して、そばにいてあげる事が難しいから!
今回の取材は、同行スタッフも多く、純輔がこの仕事の一番の責任者である事で、一
時帰国など許されるはずも無く、又、今、スタッフ、そして、アラスカでの取材協力
者全員が一丸と成って、気持ちが盛り上がっている時に、自分の個人的な事情を純ち
ゃんの性格からして、たぶん、誰にも話さずに、ひとりで、苦しみに耐え、私を、私
の体を、純ちゃんは胸が張り裂けるような思いで、心配し、気づかっている事が分か
る私は、辛く、寂しくて、不安が大きいけれど、耐えるしかなかった。
純ちゃんは、前にも益して、電話が通じる場所からは、頻繁に電話をして来ては・・・