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ブスな心が恋してる!貴方がいるから・・・(2)

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(二十三)
体が冷えて寒い、全身が硬直しているように動かないもどかしさで、私は純ちゃんを
必死で追い求めても届かない・・・
私を呼んでいるような声がしても私には純ちゃんの姿が見えない、一生懸命に眼をあ
けようとしても、まぶたが重くて眼が開かないし、身動きが出来ない!
悲しさで胸が苦しくて、痛い!
やっとの思いで声を出して純ちゃんを呼んだその時に、あれほど体が冷たく、重く、
身動きの出来なかったからだが少し暖かくなったように私の唇がほのかなぬくもりを
感じて私は静かに眼を開けたと同時に、純ちゃんの香しきにおいに包まれて、私と彼!純ちゃんの唇が重なりあった・・・
そして、ふたりの、長い、甘いキスがつづいた。
純ちゃんは優しく私を抱き上げて、ソファーまで運んでくれて、座らせてくれた。
そしておでこに、キスをしてくれた!
私は、立ち上がろうとしても、すぐに、抱きしめられて、動けない!
耳元で、優しく囁く!
「ゴメンね、長く待たせてしまって!」
「辛かっただろうね!」
「僕も、本当は仕事に中々集中できなくて、困ったよ!」
「ああ~やっと、逢えたね!」
『もう一度、抱きしめさせて!!!』
そう言って、しばらく、私を抱きしめたままで離そうとしなかった。
私はすこし苦しかった!、純ちゃんの力強さと、自分の心の中で喜びと混乱する感情が、揺れ動いて乱れた!
「今日、すべてをゆだねよう!」
そう思った時、純ちゃんは、私をソファーに座らせた隣に座った。
私の両手を取りながら、何から話せばいいんだろうね・・・
あまりにも多くの事があったし、長かったアメリカでの撮影で貴重な多くの体験をして、忙しすぎて、今、私は自分が誰なのか分からないような気持ちがするよ!
正直に言えば、とても、混乱している精神状態なんだよ!、誰を信じてよいのか分か
らない時があるんだ、そんな時、とても「カコ」に逢いたくて、そばにいてほしいけれど、現実は、僕の方がカコに逢えずにいるんだよね!
「カコ、本当にゴメンね!」
「いちばん大切なカコを遠ざける事になってしまい!」
「許せないだろう・・・」
「ぜんぶ、僕が悪いんだよ!」
「カコを悲しい思いにさせた事!」
「許して、せめて、今だけは!」
「今、僕は、どうかしてるんだね!」
「誰かに操られている人形のようだよ!」
「本来の自分を取り戻すためにも!」
「今度の企画を引き受ける事にしたんだ!」
そう言いながら、私の肩を抱き寄せて、話し始めた!
又、直ぐに、アラスカに行く事になってね、今度のアラスカの取材は二ヶ月以上にな
ると思う!
今度は、高津さんや伊達さんの事!アラスカの大自然の映像をもっと大胆に取材して
とその世界に住んでいる人たちについて、この前のアラスカの取材企画を、特別番組
として、深く掘り下げた「大自然の中で生きる人間がテーマ」で、もっと大きく広く
取り上げる事が本格的に決まって、僕はその番組のキャスター兼プロデューサーを任
された、とても大きな企画、特別番組なんだ!
やはり、純ちゃんは仕事が好きなんだ!
私が知る純ちゃんとはちがう、人間性が大きく成長したのだろうか、何処かで、今ま
での俳優としての価値観だけでは満足出来ない、感動と探究心がそうさせているのだ
ろうか・・・
アメリカでの体験とその後の立場が純ちゃんの別の感性を目覚めさせて、あれほど、
俳優としての生き方にこだわっていたけれど、何かが純ちゃんの中で変わったのだと
思った。
私は純ちゃんのひと回り大きくなった、男の輝きに抱かれながら、私との距離を感じ
ずにはいられない、寂しさと悲しみが・・・

(二十四)
今、純ちゃんは、新たに飛躍して飛び立とうとしている!
たぶん、自分の中の秘められた可能性を確かめてみたいのだろう、男として、健康な
体でエネルギーに満ちている今、一生の内で一番能力を発揮できる時期だろうと考え
た時、体の弱い私がそばに付いていては、純ちゃんが気の毒なだけだと強く感じた。
『今日、私のすべてをゆだねて!』
『大切な思い出をつくり、私の大切な宝物に出来る日にしよう・・・』
『この日が始まりで、終りであっても!』
私は、密かに思った。
「純ちゃん、今日は?」
そう決心はしたけれど、私が言葉に出来るのは、そこまでだった。
その時すでに、純ちゃんはもう、仕事の方に気持ちを切り替えていたのか・・・
「今夜も、人と会う約束があって、長くいられないだよ!」
「カコには、どうお詫びしたらいいんだろう・・・」
「こんど、アラスカから帰ったら、結婚式をあげよう!」
「僕は、仕事関係の人には知らせないから!」
「君のご両親と友人の前で!」
「君への愛を誓うよ!」
「式場を決めておいてね!」
「僕は、カコとカコのご家族だけに誓えればいいんだ!」
純ちゃんはあえて、自分の家族の事を言わないようで、私はすこし気になったが、あ
らためて、ご家族の事を聞いてはいけない気がして、黙ってしまった。
早めの夕食をホテルの部屋でふたりでして、純ちゃんは忙しく、タクシーで家まで私
を送って来てくれたが、時間が無くて、両親とは、玄関で挨拶を交わしただけで、慌
てて、帰ってしまった。
忙しすぎる純ちゃんの体が心配で気になって、不安でたまらない!だから、わざと純
ちゃんには、私は今とても元気になったから大丈夫!、私から何処へでもたずねて行
けるから・・・
「もちろん、東京の何処へでも行けるのよ!」
「なんだったら、ふたりで旅行だって出来るんだから・・・」
「アラスカへだって、私、ついて行けるくらい元気よ!」
そう言って、淳ちゃんを安心させてあげたかった、その言葉を聞いて、純ちゃんは、
本当だね、全部の日程は無理でも、アンカレジに一緒に行けたら最高だね・・・
私のから元気な嘘を気づいているようでもあったけれど、純ちゃんの素直に喜ぶ声が
弾んでいたことで、私は嘘をついてしまった事が、なんだか申し訳なさと、後ろめた
い思いがした。
けれど、「現実の私は難しい状態だった!」
私には、両親にさえ知らせていない、秘密があった!
胸の痛みが気になって、定期健診の時に胸部検査をした、その結果は、私から、すべ
ての望みを奪ってしまう、現実があった。
現実には、私は、結婚を夢見れるほどの時間も心の余裕さえなかった。
あれほど、この私を、大切にして、愛してくれる純ちゃんに、そんな残酷な私の現実
を話せない!
私はどうすればいいのだろうか、不安だけが大きく広がる絶望だけが、私の目の前に
あった。
けれど、私は常にこの事を覚悟していたような、不思議なほど気持ちは落ち着いて、
自分がこれからどうすれば良いのか心で探り当てようとしている。
特に、純ちゃんの前にいる時は、元気で本当に健康な体なのだと思えて、純ちゃんが
私に望む事すべてが叶うようにさえ思えて体がとても軽く気分も良くて幸せでいられ
ると感じられた。
これから、純ちゃんが旅立つ、アラスカがどれほどの遠い距離で、私には見知らぬ地
であっても、私の眼には見えているような錯覚さえして、ほんの一瞬、純ちゃんとふ
たりで深い森の中を歩き、白夜の光がふりそそいだ気がした・・・

(二十五)