ブスな心が恋してる!貴方がいるから・・・(1)
さえなかったのだと思う。
家を出て、どの位の時間をタクシーが走ったのかさえも分からないままで、ホテルに
着いた。
気がついた時、私は、純ちゃんの後をよろけそうになりながら、ついて歩いていた、
私のそんな姿を見て、純ちゃんは私に駆け寄って来て私を支えながら・・・
「ごめん!驚かせてしまったね!、」
「今日一日は、僕にすべてを任せて!」
「僕に甘えてほしいんだよ!」
エレベータを降りてからも、ゆっくりと歩きながらそんな言葉で話しかけてくれた。
そして、いきなり私の腕を取り!部屋の扉を開けて、私を抱き上げるようにベットの
上に運んでくれて、そっと寝かせてくれた。
そして私の耳もとで囁いた!
「疲れただろう!」
「すこし、お休み、僕は隣の部屋に行ってるから・・・」
そう言い、部屋を出て行った、純ちゃんの後姿はなぜか寂しげに見えて、私は心が痛
かったけれど、私の気持ちは少しだけ気が楽になり、ベットを這うようにして、靴を
脱ぎ、少し、眼をとじて、からだを休めるしかなかった。
隣の部屋で待っている純ちゃんは、何度か、音を立てずに、そっとドアーを開けて、
私の様子を見ていたようだった。
どの位の時間、私は休んでいたのか、やっと浅い眠りから覚めると、純ちゃんは、私
が寝ているベットの横で微笑みながら・・・
「姫はお目覚めでしょうか!」
「僕はとてもお腹がすきましたが!」
「姫は大丈夫でしょうか?」
「そろそろ、起きていただけましょうや、姫!」
「お出かけのお時間でございますが・・・」
純ちゃんはそんなふうに、おどけた口調で、私の心と体の緊張をほぐしてくれた。
お昼の食事のはずが、お昼の時間をかなり過ぎてしまったけれど、純ちゃんは、ニコ
ニコと笑顔で、私の手を握りながら歩いて、ホテルからさほど遠くない場所にあるレ
ストランに案内してくれた。
その、純ちゃんの横顔があまりにも美しくて、私は、又、胸が苦しくなるほど、嬉し
さと、幸せな想いと緊張した心が・・・
普通なら、この時間は、お店の営業時間過ぎているのだろうか・・・
「準備中」の看板が出ていた!
純ちゃんは、そんな事も気にもせずに、扉を開けて店の中へ私を案内してくれた、午
後の光が眩しいほどの街の空気とは別世界の静けさがそこにはあった。
『今日一日だけは、僕の奥さんなのだから、ちゃんと、腕を取り、歩こうよ!』
『いつか、本当に僕の奥さんになった時の練習だと思えばいいよ!』
そっと、大胆に、私の耳元で、囁いた。
私はもう、声も出ないほどの緊張と感情の昂ぶりで、倒れてしまうのではないかと思
うほどの状態だった。
純ちゃんはゆっくり歩いてくれているのが分かるけれど、私はどうしても足がもつれ
てしまい、上手く歩けない!
やっと、案内されたテーブルに着き、ウエイターさんがほんのすこしの時間、私たち
から離れた瞬間、純ちゃんは、私の手にキスをして、微笑んだ!
純ちゃんの私に対しての接し方が大胆で、今までと違う事が私を益々緊張させて、私
の取るべき態度に戸惑いながらも、幸せな想いは胸を高鳴らせて苦しいほどだった。
やはり、そこには若く端正で、はつらつとして健康な男性の姿の純ちゃんがいた。
(十九)
お店の広さは小さめだけれど、ほど良い空間が広がる、センスの良いヨーロッパ的な
雰囲気を取り入れたインテリアが、落ち着いた色彩で、適当に光を抑えていて気分の
良い雰囲気は少しだけ私の気持ちを楽にしてくれた。
私たち以外は、お客さんがいない!、静かで他人に対して気兼ねする事の無い店内は、純ちゃんと私だけの空間!
低く抑え気味に話す声だけが広がって行った、もっとも、殆どは純ちゃんが話し、私
はあいづちを打つ程度の会話で、たぶん、純ちゃんは、こんな私が不満だったろうと
思う・・・
けれど、私には不慣れな場所で、純ちゃんとのデートを出来る場所は、いつも私の家か、公園のような落ち着いた、広い場所!そして一番多く、ふたりで過ごせたのは、私の
入院していた病室、確かに、体調が良くて、小旅行として日帰りのドライブも一~二
時間で行ける近い場所だった。
それも、渋滞時間を避けた平日に純ちゃんの仕事がない日に出かけていた。
そんな時の会話もたいていは純ちゃんが話し、私は聴く側にいる事が多かった、私は
そんな情熱的に話す純ちゃんの姿がとても大好きで幸せなひと時だった。
いつだったか純ちゃんが何気なく言った一言を思い出していた・・・
「カコの夢を僕に話してくれないか?」
「僕はカコがどんな夢を持っているのか聴いてみたい!」
「その夢に向かってカコと僕とふたりで頑張るんだよ!」
そんな話をしたのは、もう、ずい分と昔になってしまったように感じた。
食事の前に、純ちゃんから、何気なく聴いた事だったが・・・
「ホテルで、カコがよく眠っていたので、予約時間をずらして貰っらったよ!」
「店が準備時間になってしまうけれど、心良く、引き受けてくれたのだよ!」
そう言いながら、純ちゃんは、かなり空腹を我慢していたようで、思わず、お腹の虫
が鳴いていた!
「ゴメンナサイね、いつも、私の我儘につき合わせてしまい!」
「これでは、純ちゃんの奥さんの役が務まらないはね!」
と言おうとして、私は言葉を飲み込んだ!
ふたりでの食事はランチコースメニューだったが、私は、正直、緊張していたのと体
調が少し変だった事で、出てきたお料理の半分も食べれずに、申し訳ない思いで、純
ちゃんに食べてもらった。
最後のデザートのアイスクリームは美味しく頂き、やっと、純ちゃんの安心した笑顔
をみる事が出来た。
食事が済んで、ゆっくりと歩いてホテルまで戻って、何をするでもなく、時間だけは
過ぎていたが、純ちゃんが突然、私の手をとり・・・
「ちょっとだけ、僕とダンスをして!」
「カコは僕にからだを預けるだけでいいから・・・」
「疲れないように、僕に寄り添っていてくれればいいよ!」
そう言って、ダウンロードして来ていた音楽を、イヤホーンの片方を私の耳に優しく
つけてくれて、私の両手を静かに自分の肩に回してくれて・・・
あの懐かしい曲『she』を純ちゃんのリードに合わせて何度も踊った。
ダンスの後、私ひとりをベットで休ませてくれて、純ちゃんは少しの時間、ベットの
脇にいて、アメリカでの生活の事を少しだけ話して、照れながら、純ちゃんは、英語
の台詞を言って聞かせてくれて、私も、ほんの少しだけ、理解出来たけれど元々、英
語に通じていたわけではない、短大時代に少しだけ、英会話を勉強したが殆ど身につ
いてはいなかった。
その事を思っただけでも、純ちゃんの頑張りは、本当に凄いと、改めて感動し、尊敬
していた。
夕食は、軽い物を部屋に届けて貰い、ふたりで、ワインでカンパイしたが、私はグラ
スに口をつけただけで、飲むことは出来なかった。
シャワーをそれぞれが済ませて、私は髪を乾かして終わって、イスを立った時、いき
なり私を抱き上げて、ベットに運んでくれた!
私は、一緒に、ホテルに泊まるわけだから、ある意味、覚悟はしていた事だったけれど!
純ちゃんは、私をベットに寝かせてから、静かに、私を引き寄せて自分の胸の中へ招
き入れた!
作品名:ブスな心が恋してる!貴方がいるから・・・(1) 作家名:ちょごり