ブスな心が恋してる!貴方がいるから・・・(1)
「この、僕には、どうしても、カコが支えてくれる力が必要なのだよ!」
「僕は、意思が弱いから、カコが励まして、背中を押してくれないとダメなんだよ!」
そんなふうに、一方的に、話して、「今日、まだ仕事があるから、行ってくるね!」と、私は、話も出来ない!何も答えられない!そんな時間さえ与えずに、急ぎ足で、出か
けてしまった・・・
そのあつく熱せられた空間の中に、ひとり残された私に、今、何が起きたのか、直ぐ
には理解出来ないほど、混乱して、胸の鼓動が苦しくなるほど、驚きと喜びに、ベッ
トの上で飛び上がりたいほどの、気持ちになっていた!
(十)
純ちゃんの突然の告白が、夢の中の出来事だったのではないかと、信じられない思い
に不安になっては、純ちゃんの話してくれた言葉を、ひと言、ひと言、思い出し、確
かめながらもなを、気持ちは喜びと混乱した不安がよぎる。
私は世間で言う「コンカツ」を急がなくては!のお歳頃なのだが、幼い頃から、病気
ばかりして来た事で、見てくれがこどもぽっくて、頼りない人間だ!
こんな私の何処を純ちゃんは好いてくれるのだろうか?、美人でスタイルも良いとい
うのであれば・・・そんな自信のない自分の心がうろたえていた。
あの告白した日から、もう、三日も、純ちゃんは、来てくれない・・・
病室の無機質な空間が、突然、嫌で嫌で、たまらなく何処かへ行きたくなる感情を抑
えて、気持ちを落ちつかせることは結構大変で苦しいもの・・・
眼に見えない鎖で繋がれているような、閉塞感の囚われるびと的な気持ちになる!
そんな、ある日、実家の両親が、珍しく、病室に現われた。
私は何度も入院している為と、今は両親ふたりだけで印刷工場をやっているような状
態で、仕事もあまり多くないし、たまに頼むアルバイトの学生も、休みがちだから、
時間が取れないと、笑いながら、母は言ってごまかしていた。
やはり仕事が少なくて、経済的にも大変なのだろうと思うと入院費の事では迷惑をか
けている事が心苦しい・・・
そんな気持ちを隠して、私は、可笑しくも無い下手な冗談を言っては、お互い、気ま
ずい苦笑いしていた。
両親の様子から、そんな、冗談めいた話で来たのではない事が、私には、分かっていた。
たぶん、入院費がかさむ為に、そろそろ、退院して欲しい!
そう言われるのだとばかり、思っていたら・・・
「あなたは、純ちゃんと結婚する気持ちがあるの?!」
いきなり、びっくりする言葉で、一瞬、私はうろたえたけれど、このような問いを心
のどこかで期待していたような気持ちがあった。
「え!、何!、誰から、聞いたの!」
その事を言うのに精一杯の気力だった。
両親の話だと、純ちゃんは、五日ほど前に、突然、家を訪ねて来て・・・
挨拶もそこそこに、いきなり、言ったそうだ!
「夏湖さんと結婚させて下さい!」
「僕には、夏湖さんが、これからの生活でどうしても必要な人です・・・」
「結婚する事を許してくださいますか?」
「病気の事も体の事もすべて、私が全力を尽して、頑張るつもりです!」
「不安に思われるでしょうね、私の仕事や、収入も不規則だし!」
「家に居られない事も多いですが!」
「もし、もし、許して頂けるのであれば・・・」
「ご両親と一緒に住んでも良いかと考えています!」
「そう計画しているのですが・・・」
やはり、私に言った時と同じように、純ちゃんは、父と母に、伝える事だけ話して、
さっと、急ぎ足で帰ってしまったと、両親は私にその時の純ちゃんの様子がとても可
笑しくて、かわいい笑顔だったと言って笑って、両親は機嫌が良かった。
純ちゃんは、本当はとても照れ屋さんで、自分のことになると極端に口下手になると
ころが私は好感を持てる存在だった!
映画やドラマでの役の上ではどんな恥ずかしい言葉も言える人ですが、いざ自分の事
になると、俳優ではなく、極めて、生真面目な人間として、あまりのギャップがある
ことが不思議だった。
私は、病気がちな体だから、両親が心配する事は充分理解出来る、私自身が結婚を現
実の事として考える事ができない!
ただ、純ちゃんの言葉が嬉しくて、幸せだった!
(十一)
私の体は、いつ、どんな風に体調が悪くなってしまい、純ちゃんに迷惑をかけてしま
うのかが、まず、最初に浮かんで来た。
確かに、純ちゃんとの夢として、ふたりで愛し合いながら、一緒に暮せたら、どんな
に幸せで素敵な事だろうと、思い、夢見た事も何度かあったけれど、それはあくまでも、夢の中での事なのだと、無理やり、知らず、知らずに、自分に言い聞かせていた事だ
った。
三十五年生きて来た私の人生の中で、何度、病院へ通い、入院生活をして来ただろうか、
かぞえる気にもなれないほど多かった、確かに、幼かった頃と比べれば、成長と共に
体も元気になって、それほどの欠席もせずに、短大を何とか卒業出来た。
そして、外の会社へ就職こそしなかったけれど、父が営んでいる印刷工場の事務を手
伝いながら、やってみたい事や学びたいと思う希望や目的が出来た時は気楽に始めて、時には無駄にしてしまう事もあったりと、そんなふうにして、三十歳近くまで、なん
となく、病気の事以外はたいした苦労もせずに、ひとりっ子の私は両親の保護のもと
で大事にされて生きて来たような気がする。
そして、純ちゃんとの奇跡的な出会いが私『杉本夏湖』のすべての価値観や物事、生
きる世界が変わって、感情が豊かになり喜びも悲しみもより深く受け止められるよう
な人間に成長させてくれたのが純ちゃんの存在だと思えるのだった。
純ちゃんとの恋する日々は、私の体の中で、息づき始めた、魔物さえも、戸惑わせる
エネルギーや細胞が活発に働き、私は、一時期は本当に健康そのもの、楽しくて、幸
せな時間を過ごしていた。
五年間は、免疫力も高まり普通の人と変わりのない日常が送れていた、確かに、少し
だけ体調を崩しても、入院する事も無く過ごせていた、今年の夏の終わりまでは・・・
アラスカへ取材の仕事で出かける前に映画出演の仕事を数日で済ませて、帰って来て、真っ直ぐに、私の病室に来てくれて・・・
「カコに、おみやげだよ!」
純ちゃんは仕事がら、地方へ出かける事も多いので、おみやげを買って来るのは「私
が止めて!」と言って、「純ちゃんが無事に帰って来てくれる」ことが、一番嬉しいの
だからとお願いしていた事だった。
純ちゃんと私は心の駆け引きなどする必要の無い間柄で、常に本心で話す約束しての
事だから、おみやげを買って来てくれる事は珍しい事だった。
小さな木彫りでひまわりの花の形のブローチだった、私の手に渡しながら・・・
「もう、北海道の山は、雪が降ったよ!」
「初雪だと、地元の人が言ってた!・・・」
「いつも年よりもかなり早いそうで、今年の冬は寒さが厳しいそうだよ・・・」
アラスカから帰ったら、直ぐに又、今撮影してる映画のつづきで、北海道に行くけど、なんか、忙しいな~、
純ちゃんは、独り言のようにつぶやいていた。
その数日後、あわただしく、純ちゃんは一人で、アラスカへ出かけて行った。
九月の中旬だというのに、アラスカはすでに秋も深まっていて、アンカレジの町では
作品名:ブスな心が恋してる!貴方がいるから・・・(1) 作家名:ちょごり