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【黒歴史】 全速力で走る霊 【2002年(18歳)】

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19. 死闘

「お前、常松智司か?」
両手から、血を滴らせていて、眼球は
剥製みたいに濁っているが、まだ少年から青年への
過渡期のような容貌が痛々しい。
「ああ・・・・・・」
奴が右手に墨研のようなものを持っているのが見えた。
刃渡り15cm未満のバタフライナイフ。
奴の身体が動いた、と思うと同時にその刃身が
身体に先だって俺に向かってくるのが、
シャッタースピードを遅くした映像のように見えた。
脳で考えている暇など無い。
ぎりぎりまで引き付けておいて横にかわす。
ひゅう、と風を切る音が俺の2,3ミリ横を通過した。
後コンマ5秒遅ければ俺の顔面に不細工な花が
植え込まれていただろう。
奴の瞬間的に加速したスピードは、すぐには止まらない。
奴は俺に背中を向けたまま無人の空間と刺し違えて
倒れ込もうとしていた。
先手を取れるチャンスは今しかない。
俺は背後から臀部に蹴りを入れようとした。
が、その瞬間常松は機敏な猿のように左足を軸にして
くるっと回転すると、相撲の立会いのような姿勢に
なった後、右手の獲物を真っ直ぐに突き出してきた。
蹴りを放った俺の右脛が奴の右手の獲物に掠った。
ズッ、とジーパンのデニム生地が破れる音と、
半端じゃなく鋭い痛みが走る。
びしゃっとアスファルトの上に血痕ができる。
神経ごと2、3本切れたかもしれない。
「くおおおおっ!!」
まだ空中にある右足は言う事を聞きそうも無い。
左足を踏ん張って、身体を引き起こし、
全力で奴に体当たりした。
ガン。
奴は壁のコンクリートに思いっきり頭を打ち付けた。
ずるり、とナイフが滑り落ちるのが傍目にも見えた。
意識が飛んだ。目の前の球体を、
右手で、左手で、しこたま殴る。
俺も、気が狂いそうだ。手の甲の皮が剥けてきた。
「はぁ・・・はぁ・・・」
ふと、手を放すと、奴は壁にずるずるとしだれかかった。
殺したか?頚動脈に手を当てる。ドクン。
死んでいない。気絶しているようだった。
奴の真っ直ぐに見開かれた濁った眼球は、どことなく
怯えを映しているような気がした。
結局、常松のやつは一言も喋る事も無く、
しかも俺が何も言わない内からナイフを向けてきたのだ。
というか、奴は誰と闘ったのかさえ覚えてないかもしれない。

ふと、奴が地面に落としたナイフが目に入った。
拾い上げて考える。
こいつは、クズだ。