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【黒歴史】 全速力で走る霊 【2002年(18歳)】

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13. 落伍者

もう、今までの霧岡さんはいない。
僕の信じていた世界が、崩れていく気がする。

沢村現は、例の行為をするために、
夕食を食べて家に帰った後自分の部屋へ籠った。

相島沖史が別れる前に何か言っていたが、
その時彼は殆ど正気を保ってはいなかった。

両親は、居間でテレビを見ていた。

彼は両親に、精神科に行きたいと一度だけ
言ったことがある。

「あんたねぇ、受験が嫌で逃げてるだけじゃないの?
そんなバカな事言う暇があれば勉強しなさい。
あんたが大学に入れなくて予備校なんかに行くのだけは
やめてくれないと困るんですけど。年間幾ら掛かると
思ってんの?それに近所の目だってねぇ。
大体こないだの模試だって・・・」
観点の摩り替え。息子を扱うのは自己営利心。
結局、精神病院に入るなんてまともに取り合わない。

あいつらには最悪の状況を思慮する能力が欠けている。
そして何より、現状の認識力に欠けているんだ。

あいつらは、息子が部屋で手首にカッターナイフを
当てているなんて知らないはずだ。

その傷にも気付かないのだからーーー。

チリチリ、と今にも外れそうな拙い捻子を廻す。
剥き出しになった濁った金属の薄刃を見つめると、
不思議と心が落ち着くのは何故だろう?
吸い付けられるように刃を皮膚に押し当てる。
押し当てるだけではまだ切れない。
それが刃物の常であり、ほんの一、二年前までは
ここまでで怖くなって中断することしきりだった。
いつからだろう?その”行為”がまるで昔のアルバムを
捲るかのような感懐に満たされていったのは。
切れ味を探るかのように、丁寧に、引いてみる。

「痛っ・・・」
カッターを落としてしまう。
ぱっくりと、手首から肘の方向に2cmの場所、
横切るように細長い口を開けた白い切り口が、
僕を嘲け笑うかのようにその口を見せている。

やがて、プッ、プッ・・・と
赤い液体が表面張力に従い、玉を作るように浮き出る。
これはまだ薄皮の部分しか切れていない証拠だ。
やがて、全体に血が滲み始める。
手首を高く上げたまま、足元のカッターを拾い上げる。
まだだ。もっと深く切らないと死ねない。
意を決すると、手首を再び心臓の下に持ってきて、
今の切り傷に慎重に再び薄刃を重ねようとする。
手が、震えて上手く傷口に照準を合わせようとしない。