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【黒歴史】 全速力で走る霊 【2002年(18歳)】

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12. 悪

俺と沢村は、新田さんから
霧岡さんの事件の事を聞いた。
その時には、事件発生からもう一週間が過ぎていた。
今はPTSDの治療の為に、入院してるらしい。
俺と沢村は示し合わせて、無理矢理新田さんに
病院に連れていってもらうよう頼んだ。

入院先の病院は市内の外れに在る市立病院、
精神科病棟の、210号室に霧岡さんは、居た。
正確には、霧岡さんらしき人、だ。

ボサボサになった頭髪は以前の面影を残していない。
目は、じっと遠くを見据えていて、動くものに
反応することもない。
表情は、どう描写していいのか。
何も携えていない、感情と言える物を持ち合わせない顔。
死人だって、もうちょっとましな顔してるはずだ。
「何だよこれ・・・」
沢村まで蒼白になって驚愕の表情を湛えている。
「その・・・彼氏にね、公園に連れていかれたんだって。
そしたら、柄の悪い、連中が、数人居て・・・
交代で、怜奈を・・・その・・・犯して・・・
彼氏はお金を貰ってたの。
それで怜奈を置き去りにして・・・」
新田さんの言葉も詰まる。
俄かには信じ難いシチュエーションだ。しかし、
そうでもされなければ霧岡さんもこんな風にならないだろう。
「その男は、何て名前だ」
「常松智司。20歳。
怜奈も、そいつの名前さえ教えてくれてれば、
こんな事防げたかも知れないのに・・・
その道じゃ有名な、売春ブローカーのクソガキよ。
擦れてない女子高生を引っ掛けて
こんな事をもう2年近く続けてる」
「常松・・・智司・・・」
沢村がうわ言のように繰り返す。
「毎日朝から晩まで、公園の前のファミマで
売春の斡旋と女の子のスカウトをしてる。
怜奈なんて、捨て駒の一つでしかなかったのよ」
結局、俺達は、自分の無力さと、
どうしようもない悪に対する、怒り・・・
そんなものを引っ張り出す事ぐらいしかできなかった。
「幽霊になるんだ・・・幽霊に・・・」
沢村の只ならぬ様子が、よく解る。
俺達はもう戻れない所まで来ているのかもしれない。