ぼくがであった鬼
頭がずきずきするのでさわってみたら、ちょうどてっぺんに大きなこぶができてる。
「なんだ。なんともなってないよ」
お兄ちゃんはそっけない。
「だって、こんなに大きなこぶなんだよ」
「なに言ってるんだ。ロキ。それは角だろう? おまえのは特別小さいんだよ」
「ええ? 角?」
いったいお兄ちゃんはなにを言ってるの?
しかもぼくのことロキだなんて……。
「お兄ちゃん。ぼくはヒロキだよ」
「え? 頭ぶつけておかしくなったのか? ロキ。お兄ちゃんじゃなくて、教官だろ」
「ちょっとまってよ。なんで教官なのさ」
「とぼけるな。おまえの操縦ミスで地球に不時着したんじゃないか」
「ええええええ?」
ぼくはびっくりぎょうてんだ。いったいどうなってんの?
「ちがうよ。ぼくは流星群を見てただけじゃないか。そっちこそ頭おかしくなったんじゃない? むずかしい勉強のしすぎで」
「ばかをいうな! おまえこそ机にかじりついて本ばかり読んでるから、宇宙船の操縦一つまともにできない落ちこぼれじゃないか」
なんだか話がかみ合わない。声は確かにお兄ちゃんだけど、言ってることがすごくへん。
確かめようにも、真っ暗だからちっとも顔が見えない。いったいどうしたらいいんだ。
「そうだ。ポケットに……」
声の主はごそごそとポケットから何かを出した。それはぽわっと明かりになってぼくたちを照らし出した。まるで手品か魔法みたいに。お兄ちゃん、こんなの持ってたんだ。
「やっぱりロキじゃないか」
「やっぱりお兄ちゃんだ」
たしかにお互い見慣れた顔だ。でも、よく見るとちがう。ぼくはしげしげと見つめた。なんと、お兄ちゃんの頭には二本の角がある。
「うわ! 鬼、鬼だあ」
後ずさりしたら、草に足をとられてひっくり返り、また頭をぶつけて気が遠くなった。
「おーい。ヒロキ」
その声でぼくは気がついた。今度は本物のお兄ちゃんだ。
起きあがると、目の前にほわほわと光が浮かんでいる。
「きゃ、人魂」
ぼくがのけぞると、後からお兄ちゃんがしっかり支えてくれた。
「しっかりしろ。ちがうよ」
よく見ると、さっきの明かりだ。でもそばにいる人影が増えてる。お兄ちゃんともうひとりのお兄ちゃん。それに……。
「わあ。ぼ、ぼく?」