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せき あゆみ
せき あゆみ
novelistID. 105
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ぼくがであった鬼

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 夕方、隣のアパートに住むお兄ちゃんが、車に荷物を積んでいた。
「どっか、行くの?」
 垣根越しに声をかけると、
「お、ヒロキ。今夜、鬼火山に流星群を見に行くんだ」
と、お兄ちゃんは振り向いてこたえた。
「いいなあ、ぼくも見たいな」
 いつか、お兄ちゃんと獅子座の流星群をうちのベランダから見たときは不発だった。だから、ちゃんとしたのを見たかったんだけど。
「今日はちょっと遠出だからなぁ」
 お兄ちゃんは残念そうにつぶやいた。
「お母さんがいいって言ったら、連れてってくれる?」
 それでぼくはお母さんに頼んでみた。
「そうねえ、明日は土曜日だし。でも、冷えるから気をつけて」
 お兄ちゃんの口添えもあったから、お母さんはわりときげんよく承知してくれたんだ。
 なにしろ、お兄ちゃんはお母さんのお気に入り。一流大学に通うエリートでハンサムだし。しかもなによりお母さんの初恋の人に似てるときてる。おっと、このことはお父さんにはないしょ。
 夜十時頃、家を出た。車で四十分ほど走って、鬼火山のふもとに着いた。流星群を見ようと人がいっぱいきている。
「昔は、ここに鬼が住んでたらしいぞ。今でも鬼火を見たって言う人がいるんだって」
 お兄ちゃんがもっともらしく言った。
「やだよ。夜中にそんな話」
 お兄ちゃんは人混みをさけるため、横道にそれて雑木林に入った。その先は原っぱだった。
「ここは穴場でね。静かに見られるんだ」
 夜空はよく晴れ渡って、星がいっぱいだ。
 お兄ちゃんは車の幌をはずして、シートを倒した。これで楽に星が見える。
「うん。今夜はよく見えるぞ。不発でなきゃいいけどね」
 星が流れ出すと、山のあちこちから歓声が上がった。流星群は降るように流れて、ぼくは自然の天体ショーに目が釘付けになった。
「わあ、あれ、ずいぶん大きいね」
と、ぼくが言ったときだった。
 突然、目の前がぱあっと明るくなって、あまりのまぶしさに思わず目をぎゅっとつぶった。それからはもう、なにがなんだかわからない。すごい風が吹いて、車ごとふわりと宙に浮いた感じがした。

「……ロキ。……ロキ」
 気がつくとぼくは草むらに転がっていた。
「だいじょうぶかい? ロキ」
「うん。ちょっと頭をぶつけたみたい」
作品名:ぼくがであった鬼 作家名:せき あゆみ