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laughingstock4-3

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 女のpielloでも彼女のようなpielloは見たことはなかった。彼女はふわふわと歩いていたがいきなりリーフの方へじっと視線を送る。

「・・・ふん。久しいな。pielloか」

 その言葉に彼女は完全にリーフがいる場所が視えている事を知る。ならば隠す必要もないのでリーフは姿を現す。しかし彼女の声からすると彼らしき人に近付く。

「初対面だよね・・・?君と僕は」
「そうだな。我はお前を知らぬ。若きpielloだろう?」
「・・・?」

 見た目ではそう年齢の違いは感じないが、口調は老けている。リーフは困ったように帽子を押さえる。その様子に彼は見た目と合わないような鷹揚さで笑った。

「我はこの見た目だが、お前の何倍も生きている。しかし気にするな。
 お前の言葉で話す方が話しやすいだろう?」
「では・・・名前訊いてもいい?」

 一瞬眼を瞬きさせて、眼を細めて微笑んだ。

「良いとも。我はルイス。お前は?」
「リーフ。・・・ルイス、君のウサギは?」
 
先刻から気になっていた。ウサギの気配が周囲になく、彼自身からもウサギの繋がりを感じられなかった。むしろ、世界との繋がりが切れているようにリーフは思う。ルイスは手に持つ傘を開いて差しながら日常会話をするように答える。

「我にウサギはいない」
「?」
「我がpielloだといつ言った?我はもうお前の思うpielloではない。正確に言うならばpielloの能力を持ったまま世界との繋がりを切った者と、言うのだろうな」
 
リーフは黙ったまま、ルイスを見つめる。彼が嘘をついているという様子は窺う事はできない。
 だが、そんな事は有り得ない筈だとは言い切れない。しかし聞いた事がない。

「リーフ、お前が聞いた事が無いのは仕方がない事だ。我があの世界にいたのは随分以前の話だからな。
 そして、我のような者を出した事を上層部が言いたがる訳がない。・・・うん?」

ルイスは何かに気付いたようにこちらに寄ってくる。リーフはその分下がると、ルイスがさっと後頭部に触れてくる。

「!!?」
 
きょとんとしてルイスはまじまじと自分の手を眺めて、再度リーフを覗き込む。

「お前、人じゃないな。我がいた頃にお前のような者はいなかった。
 我の・・・罪か?」
「ルイス?」
 
分からないと言おうとしたら、ルイスは触れるか触れないかギリギリまで身体を逸らしてリーフに手を伸ばす。

「・・・本当に異様なほど綺麗に創ったものだ。見ている分に何の問題は無いが・・・。
 それ以外はどうか。リーフ、お前はその身体に不満はあるか?」
「ルイス、説明が先だ。何故、僕に聞く?」
 
ルイスは笑って身を引く。そして村の惨状を見回して手につけている腕時計を見下ろした。

「皮肉な口は好まぬ。だが、説明は今度にしよう。
 我が用があるのはお前ではないのだから」

その視線を村の中心に向け、一人で歩き去っていく。

(歩く危険物みたいだ)

 あの奇抜な格好と化粧で来たら、芸人とは思えないかもしれない。むしろ異様だ。と、自分を棚に上げてリーフは思う。けれど彼の話は不思議だった。要領をあまり掴めなかったのもある。
 pielloに時間の制約は無い。あの世界に来た地点で成長は止まっているらしいし、時代の移り変わりも直接的に関与しない。あの世界にいる限りは。

(世界との繋がりを切ったら、彼はもうpielloじゃない・・・)

 ウサギと切れたという事は空間を飛ぶ事ができないという事だ。そして時間の制約のないあの世界にいたならば、彼はずっとあの姿でこの世界にいたという事にならないか。

(そんな事を望むpielloがいるんだな)

 リーフは不思議に思う。人間pielloはこの世界を棄ててあの世界にきたと聞く。また戻りたいと思うものなのか。自分はこちらで生まれ育ったわけではない。だからこそ分からない感情なのだろうかとも思う。

(・・・やめよう。今考えても栓の無い事だ)
 
彼と出逢ったからといって自分の仕事が変わる訳ではない。そう思い、姿を消して行動を開始した。


 一方、教会では人々が集まり、リリエッタの仲間が神父の代わりに教えを人々に読み上げていた。それに倣って同じように言葉を繰り返す。だが、頭に過ぎるのは一度だけ姿を現した道化師の格好をした男と巨大なウサギだった。
 彼らのような悪魔の囁きを持つ者など自分には無縁だと思っていた。そして彼らに頼る事こそ罪だと。だが、彼らはリリエッタの前に現れた。護る依頼を受けたと。
 卑劣にもリリエッタの名を使う者が自分を護るなんておこがましい事だと思った。

(彼らに頼る事は良くないわ。けれど自分で呼ぶ勇気もない人間に護られたくもない!!
 私の身は私が護る)

 彼らに頼る事は・・・罪だ。けれど、

『僕らはどこまでも貴方方の呼びかけに対し現れる。
は弱い。たとえ聖職者であろうと貴方方のいう『最後の審判』で天国へ向かうためには罪を犯しては行けな い。特に聖職者は完璧でないといけない。しかしどうにもならない事があることは知っているはず。
 だから僕らの仕事には終わりがないのですよ』

 そう、上位聖職者は私腹を肥やし、民よりも豪華な姿で歩く事に対してリリエッタには何もできない。彼らがいなくなれば良い訳ではない。全て変わらなければいけないのに何も変わらず、教会の品位は落ちていく一方だと感じている。民もそう感じているだろう。

 人は、無力なのだ。だから―

(彼らに頼る?・・・自分の努力はやめてしまうの・・・?)

 リリエッタにはやはり彼らの干渉・関与は認められない。彼らが関わった事で何も変わらない事は百も承知で、彼らを待つより神を想うべきだと考える。
 喩え彼らに悪意は無くても、リリエッタは認めるわけにはいかなかった。
 だが、今は他愛無い思考打ち消して祈りに没頭する。
 認める事がリリエッタの厭う者達と同じとなるからという思いから来ている事には気付く事無く。
  
 リーフがウサギの元に向かうと、時間帯的に祈りの時間だったらしく人々の姿は無い。あるとしたら病人か病人を看る者か乞食くらいだった。そうして見てみると聖職者達が此処で救いの言葉を伝えていても、この村は凄惨だった。リーフ達の必要となくなった世界であるのかもしれない。
 正確にはリーフ達には叶えられない願いを持つ場所。

(だけど、人はこの結果を待っているわけじゃない。もっと豊かで、生活を保障された世界)

 pielloを必要とせずにはいられない世界。リーフが最も解せない世界。
 自分達を必要としながら善人であろうとする人間達と共に、弱者が潰れていく世界は此処よりももっと酷いはずだった。
 リリエッタはpielloを完全に否定しながら迷っている。
 やがて目の前に教会が見える。その扉は開かれているため、祈りは終わったのだろうかと推測して近付くと身振りの良く、丸々と太った者やそれらの者が数人教会を囲んでいる。衣装からして教会の者達のようだった。馬を何頭も連れた絢爛豪華な馬車が少し離れた場所で止まっている。
 中から出てきた者達は嫌そうに顔を顰め、ハンカチで口元を塞いでいる。
作品名:laughingstock4-3 作家名:三月いち