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laughingstock4-3

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 人は弱い。たとえ聖職者であろうと貴方方のいう『最後の審判』で天国へ向かうためには罪を犯しては行けな い。特に聖職者は完璧でないといけない。しかしどうにもならない事があることは知っているはず。
 だから僕らの仕事には終わりがないのですよ」
「私はっ・・・そんな事をしない。貴方達の手なんて死んでも借りないわ」

 リリエッタはそう言い捨てて表へ走って去っていく。名も無きウサギとリーフは顔を見合わせ、仕方なくその場から姿を消した。


「うーん。困ったなぁ」

 まったく困ったように聞こえない口調で、相棒は呟く。木の上に移動して少し遠めに彼女の行動を見ることにしたが、リーフは退屈そうだった。
 何故?と聞くとリーフは木の幹に凭れ掛かって欠伸一つ。

「依頼人違いが面倒だ。
 忘れてたけど僕らの仕事これ多いよね。本当に馬鹿を見るような仕事だ」
 
吐き捨てたり嘲りを含む事無く、ただ淡々とそう思ったのだろう。ウサギはほんの少し不安になった。
 彼がこの仕事を嫌になったりしないだろうかと。そうなったら自分は。

「でも僕は仕事を辞めたいって訳じゃないよ」
 ウサギの思考を途切らせるようにリーフは続ける。彼は涼しそうに眼を閉じていた。

「ろくでもない仕事ばかりだけど、最近当たりもいいしね」

 しかしウサギは覚えている。依頼人は違う名で殺しの依頼ばかりが来て、リーフは良心が咎めるとかいう以前に飽きたのだ。依頼人の顔も見ずに首を掻き切っては戻り、そして似たような仕事が来る。その繰り返しの中でリーフに眠りが来て時代はほんの少し変わった。けれど良かった事だとウサギは思った。
 軽口も叩かない。ただ仕事に従順な人形のようだった彼をウサギは隣で見ている事ほど嫌なものはなかった。普段は喋らない自分の分まで返事をして、中身は本当は冷たそうに見えて彼が執着した者なら彼はどこまでも優しい。ウサギにも随分優しいと思う。ウサギを一つの意思のある生き物と認めてくれる存在であった。
 護りたいと思う。それはリーフに言わせるとおこがましいのだと言う。
 それでも側にある限りは、と思うのだ。
 時代がほんの少し落ち着いた今は、本当に良い。

「今回は殺せじゃなくて護れだね。気の強い娘さんがそれを許してくれるかどうか。
 護るって事は、その危害を加えるつもりの相手が何か為す前に排除・・・っと止める必要がある。
 しかも僕らの姿は比較的見せずに、ね」
 リーフは閉じていた眼を開き、緩やかに嗤った。

「難しいね」

 それから、ひっそりとリリエッタの護衛とも言えない観察が始まったのだが、特に彼女を狙うような輩も現れず、リーフと共に退屈な日々を暮らすことになった。
 しかしウサギから見てもリリエッタという女性は特に可もなく不可もない普通の聖職者だった。ただ聖務に忠実で仲間内からも信頼が高く、何の位もない一聖職者。
 慈しみに溢れ、悪を許さず神の教えを説くその姿は、神を見たことはないが、彼の使者そのものかもしれなかった。けれど彼らはこの時代では異端なのだ。

「間違った事は何もしていなくても。そう言いたいんだろう?」

 リーフが考えを読んで、返してきた。彼はこの村の惨状を日々見て回っている。飢饉に苦しむ村を見るのは彼は初めてだったはずだ。
 その事を訊ねると、リーフはああ。と普通に答えたが、少し気落ちしているように見えた。

「僕らには縁のない事だけど、こうやって自然の摂理も加わって死んでいく人もいるんだね。
 
どんなに願いを叶えると言っても僕らに病は治せない。本当、こういう意味でも万能じゃない事を思い知らされたよ」

ウサギはそれに対して答える術を持っていなかった。リーフの視線の先にはリリエッタが死に逝く人の手を握り、側で祈りを捧げている。

「僕には分からないけど、側にいてもらえるだけでも彼らは救われているんだよね。
 お前もそうなのか?」
 
そう言われてウサギは自分を振り返り、頷く。誰かがいる事は救いなのだと。

 自分は君に救われた。

 そう伝えるとリーフは本当に可笑しそうに笑った。

「名も無きウサギ、買い被り過ぎだよ。・・・」
 
笑顔を引っ込めて彼はただ見つめ、やがて視線を外す。

「そうか・・・。そういう事か。それこそ・・・無償だね。
 本人は気付かなくても受け取る相手がそう感じれば、それは救いになるんだ」 
 
そうだとも。それは君に教えられたとウサギは伝える。君はこうして誰かの力になっていると伝えたい。

「彼らが教会から抜けてまで行いたかった事は、きっとそういう事も含まれているんだね」

 亡くなった人の為に涙するリリエッタはその全てだろう。彼女達は見返りを求めない。ただ、自分の信じる神の教えを説き、行い続けるだけだった。
 ほんの少し、シェロに似ているとウサギは思ったが、リーフは頭を振って否定した。

「似ていない。思いは同じだろうけど、まったく似ていない。
 殉じる事はこの時代では神と法律だ。
 彼女達は確かに「異端」なんだ。この世の全ての善人が助けられると思っている?名も無きウサギ。
 いくら根が善人でもこの時代では彼らの行いは許されるべきではない。
 それにね、この村を見て思ったよ。所詮彼らの施しでは何も変わらない。むしろ酷だ。変わらなければ意味が ない。変わらなければ彼らは反逆者だ。
 だから、リリエッタへの依頼が来たんだろう?」
 
彼女達の行いは褒められたものだ。それを彼は否定する。どこまでも客観的な視点で見ているリーフを偶にウサギは悲しく思う。彼に認められなかった者達への憐憫さを生むほどの温度差に。
 その赤い眼に優しさはない。ただの個体としてしか映さないpiello。
 同僚達にも同様に。如何に彼が棄てても惜しくないほどに全ての物に執着のない瞳。全てを隠して偽りの笑顔で微笑み続ける。
 それを悲しく思う前にウサギはほっとしている自分に気付き、自分に嫌悪する。
 嫌な感情に支配される。
 自分は彼に認められている。彼の中に容れられている事への満足感と罪悪感とが鬩ぎ合い始める。
 
コンナ自分、ナクナッテシマエバ・・・・
 
ウサギの衝動を「癖」といって笑った彼に否定してほしかった。けれど今、彼は見向きもしない。押サエ込ンデ押サエ込ンデシマエ。そう言い聞かせる。
 全て気の所為にしてしまえたら。
 どんなに生き易かっただろうかと。


リリエッタの観察はウサギに任せて、リーフは一人で行動する。村の人間が騒いでいた偉い方々が来るという言葉が気になった。もう村に着いているかもしれないと思い、姿を消したまま家々の連なりを抜けていく。村の出口辺り、亡骸が捨て置かれた物寂しい場所に人が立っていた。
 特に祈るわけでもなく、その場を通りかかっただけという様子だったが、その姿が異様だった。前髪を揃えて何処かの貴族の娘のような衣装だが、スカートではなく短いパンツを履いている。そしてその手には傘が握られている。アンバランスで奇抜で、浮世離れした様子はpielloでしかこの世にはいない。

(同僚・・・?)
作品名:laughingstock4-3 作家名:三月いち