laughingstock4-3
第4章2 lilietta
この時代、隠者生活という世俗を棄てて修道院に籠もるだけではなく、世俗を棄てて仲間達と各地を放浪して教の教えを説いた者達が増えてきていた。伝統的な修道運動で働いていたのを捨て去り、わずかに慈善と謙遜、禁欲及び共同体的意識の実践だけ継承した。社会と触れ合おうとし、信者の教育や異端審問など進んで引き受けた。その行動の機軸を謙遜・清貧・祈りの要請に従う使途的生活のまねびに置き、金銭を手に入れることとても蔑んだ者達が現れていた。
その道筋は根本的規律を忘れた高位聖職者たちの蓄財や堕落、思い上がりに対する反発が起こったためであった。巡回の説教者たちは清貧に帰るよう解き、異端者が位階制度や聖職者体制を支える世俗的基盤を問題視していた。
「・・・」
いつものように名も無きウサギの腕に掴まって辿り着いた場所は、人通りの多い何処かの街道のようだった。荷車を引く者や、大道芸人、商人が街へ或いは農村へと流れが向かっている。そんな場所へ落とされ、ウサギを振り返るとウサギはごそごそと自分の懐から依頼書を取り出している。ようやく取り出されたそれをウサギの手から抜き取る。
「・・・今回は何の仕事かなぁ。・・・って、お前やる気ないだろう。お前がやる気がないと僕が困るのに・・ ・」
その時ふと視線を感じてウサギの腕を反射的に掴む。今はウサギの力で誰の眼に触れられるはずはないはずだった。しかしまっすぐこちらを見られている気がして周囲を見渡す。ウサギは不思議な様子だったが、リーフは一つ溜息をついて農村へ進む。
「・・・行こう。また厄介な仕事らしいからね」
そう、同業者であろうと見えるはずが無いのだ。
リーフ達が足を踏み入れた農村からは死臭が漂い、多くの鴉が飛び立っては降りることを繰り返している。村の入り口では病で倒れたらしく、斑点が身体中に見えた人の屍骸が白骨化していたり肉が現れたりしながら隅へ放置されている。村自体、貧窮で喘いでいるのだろう。畑には作物の姿はなく、枯れている。
「日照りが続いたのか・・・」
村の中心部はそれでも人が暮らしている事を教えている。しかしどの村人も襤褸を纏い、顔色は悪い。栄養失調なのだろう。北にある村の唯一らしき教会には沢山の人が祈りを捧げているのが開け放たれた扉から見える。入れない人々の啜り泣き、懇願が聞こえてくる。
その姿を見ていると西側から黒のローブを纏った集団が教会へやってきたと思えば、施しと祈りを教会の中へ入れなかった人たちに与え始めた。
彼らの眼に光が灯る。そして彼らのローブを掴み、訴えている。
「ああ。神よ・・・これは我らの試練なのですか」
「神は最後の審判にて私達は救われると仰られる。未来の為に・・・我らは今を耐えるのだ」
少しして教会の神父が真っ青な表情をして飛び出してくる。
「ああ・・・!貴方がたは・・・!!」
(此処に比べて、随分裕福な格好な神父だな)
「貴方は此処の村の状況を見ていて何もしなかったのですか。
根本的規律を忘れた聖職者たちの蓄財や堕落、思い上がりに対し、我ら説教者たちは清貧に帰るよう解く。」
黒のローブ姿の者が彼に近づき、彼を拘束して何処かに向かっていく。リーフは多分、神父の家で私財を没収されるだろう事は予測できた。神父のいなくなった教会は人々が驚き、戸惑っている。黒のローブに身を纏った者の一人が深く被ったフードを除けた。現れたのは見事な金髪の長髪の女性で、彼女は教会の中へ進んで人々に聞こえるように声を出す。
「我らが来たからにはもう安心です。貴方達に本当の教えを授けましょう。そして貴方達にほんの少しの助けを。落ちた聖職者を正し、貴方達に真の道を」
その言葉に人々の喜びの声が上がる。これで救われると涙を流す者もいる。
リーフはその姿を遠巻きに見ながら、姿を見えないように消す。
「・・・滑稽な人ばかりだね。いや、この時代が、か。
うん?シェロ?・・・あぁ、残念ながらシェロ側では無さそうだ。
彼女が離れたよ。自己紹介に行こうか、名も無きウサギ」
教会を他のメンバーに任せ、先刻の女性は水を飲みに場を離れ、教会の裏へ回ったらしい。そこで一息つくように腰を掛けている。
彼女を脅かさないように近付き、背後から挨拶をする。
「少々よろしいですか?」
「何でしょう」
振り返りもせずに彼女は答える。それはまだ範疇の内だとリーフは彼女の背に一礼一つ。
「貴方のお呼び出しに参上した者ですが、顔も見せてくださらないのですか」
おどけて悲しそうな声音を作って見せると訝しげな気配が伝わる。次の瞬間、悲鳴をあげてすぐその口をリーフが手で塞ぐ。
「静かに。こんにちは。僕、pielloのリーフといいます。
先程の演説素晴らしかったですよ。感動しました」
「嘘を・・・おっしゃい!」
彼女は自分から手を払い、睨み付けてくる。
「ほんの少しもそんな気なんてないくせに!pielloなんて悪魔の遣い、私は信じないわ」
「変な話ですねぇ。貴方が依頼したのでしょう?僕らに願いを叶えて欲しいと」
「してないわ!」
リーフが眼を一瞬見開き、自分の背後のウサギを振り返るとウサギも戸惑っているらしく、とりあえず依頼書を手渡してくる。
「・・・念のために訊くけど、貴方はリリエッタ?」
「ええ」
「俗に言う異端修道士会の」
「・・・・他にちゃんとした名前はあるけど、そうよ」
気丈に言い返してくる彼女―リリエッタを横目にウサギと意識でやり取りをする。
(・・・お前、人違いなんじゃないか?正しいって?これ程はっきり断ってくるのにどこからの自信なんだ・・ ・?)
しかし自分のウサギは首を横に振り続ける。リーフは厭々考えつく提案を出してとりあえず仕事遂行に結びつくように動くようにした。
「~もしかしたら、貴方の身近の人が出したかもしれない。自分の名前では厭だけど、君を助けたいって言うね。よくあるんですよ」
「何で?」
「それは、人の考え方によりますが、貴方方なら僕らに頼り、自分ではできない事を頼む事を自分の罪と感じますか?それとも直接手を下していないから、自分の罪にはならないと感じますか?
それだけですよ」
さっと顔色を変え、唇を戦慄かせるリリエッタにリーフは嗤ってみせた。
「人の考える事は安直で醜い。しかしとても合理的だと思いませんか?」
「・・・貴方は本当の悪魔ね。夢の中で人を誑かす美しい夢魔だわ・・・!」
何度言われた言葉だった。リーフは逢った事がないため、夢魔は知らないがきっと似たような格好でもしているんだろうと勝手に思い込んでいる。内心面倒だったが、表面には出さずに自分を繕う。
「お褒めの言葉をありがとうございます。僕の顔は気に入ってくださって嬉しいですよ。
けれど、pielloはどこまでも人の願いに忠実である事が仕事ですから。
貴方が僕らを呼ばなかったとしても、僕らは貴方の願いを叶えますよ」
「・・・っ!!まだ言うの・・・!?」
「貴方をたぶらかすなんてそんな。僕らはどこまでも貴方方の呼びかけに対し現れる。
この時代、隠者生活という世俗を棄てて修道院に籠もるだけではなく、世俗を棄てて仲間達と各地を放浪して教の教えを説いた者達が増えてきていた。伝統的な修道運動で働いていたのを捨て去り、わずかに慈善と謙遜、禁欲及び共同体的意識の実践だけ継承した。社会と触れ合おうとし、信者の教育や異端審問など進んで引き受けた。その行動の機軸を謙遜・清貧・祈りの要請に従う使途的生活のまねびに置き、金銭を手に入れることとても蔑んだ者達が現れていた。
その道筋は根本的規律を忘れた高位聖職者たちの蓄財や堕落、思い上がりに対する反発が起こったためであった。巡回の説教者たちは清貧に帰るよう解き、異端者が位階制度や聖職者体制を支える世俗的基盤を問題視していた。
「・・・」
いつものように名も無きウサギの腕に掴まって辿り着いた場所は、人通りの多い何処かの街道のようだった。荷車を引く者や、大道芸人、商人が街へ或いは農村へと流れが向かっている。そんな場所へ落とされ、ウサギを振り返るとウサギはごそごそと自分の懐から依頼書を取り出している。ようやく取り出されたそれをウサギの手から抜き取る。
「・・・今回は何の仕事かなぁ。・・・って、お前やる気ないだろう。お前がやる気がないと僕が困るのに・・ ・」
その時ふと視線を感じてウサギの腕を反射的に掴む。今はウサギの力で誰の眼に触れられるはずはないはずだった。しかしまっすぐこちらを見られている気がして周囲を見渡す。ウサギは不思議な様子だったが、リーフは一つ溜息をついて農村へ進む。
「・・・行こう。また厄介な仕事らしいからね」
そう、同業者であろうと見えるはずが無いのだ。
リーフ達が足を踏み入れた農村からは死臭が漂い、多くの鴉が飛び立っては降りることを繰り返している。村の入り口では病で倒れたらしく、斑点が身体中に見えた人の屍骸が白骨化していたり肉が現れたりしながら隅へ放置されている。村自体、貧窮で喘いでいるのだろう。畑には作物の姿はなく、枯れている。
「日照りが続いたのか・・・」
村の中心部はそれでも人が暮らしている事を教えている。しかしどの村人も襤褸を纏い、顔色は悪い。栄養失調なのだろう。北にある村の唯一らしき教会には沢山の人が祈りを捧げているのが開け放たれた扉から見える。入れない人々の啜り泣き、懇願が聞こえてくる。
その姿を見ていると西側から黒のローブを纏った集団が教会へやってきたと思えば、施しと祈りを教会の中へ入れなかった人たちに与え始めた。
彼らの眼に光が灯る。そして彼らのローブを掴み、訴えている。
「ああ。神よ・・・これは我らの試練なのですか」
「神は最後の審判にて私達は救われると仰られる。未来の為に・・・我らは今を耐えるのだ」
少しして教会の神父が真っ青な表情をして飛び出してくる。
「ああ・・・!貴方がたは・・・!!」
(此処に比べて、随分裕福な格好な神父だな)
「貴方は此処の村の状況を見ていて何もしなかったのですか。
根本的規律を忘れた聖職者たちの蓄財や堕落、思い上がりに対し、我ら説教者たちは清貧に帰るよう解く。」
黒のローブ姿の者が彼に近づき、彼を拘束して何処かに向かっていく。リーフは多分、神父の家で私財を没収されるだろう事は予測できた。神父のいなくなった教会は人々が驚き、戸惑っている。黒のローブに身を纏った者の一人が深く被ったフードを除けた。現れたのは見事な金髪の長髪の女性で、彼女は教会の中へ進んで人々に聞こえるように声を出す。
「我らが来たからにはもう安心です。貴方達に本当の教えを授けましょう。そして貴方達にほんの少しの助けを。落ちた聖職者を正し、貴方達に真の道を」
その言葉に人々の喜びの声が上がる。これで救われると涙を流す者もいる。
リーフはその姿を遠巻きに見ながら、姿を見えないように消す。
「・・・滑稽な人ばかりだね。いや、この時代が、か。
うん?シェロ?・・・あぁ、残念ながらシェロ側では無さそうだ。
彼女が離れたよ。自己紹介に行こうか、名も無きウサギ」
教会を他のメンバーに任せ、先刻の女性は水を飲みに場を離れ、教会の裏へ回ったらしい。そこで一息つくように腰を掛けている。
彼女を脅かさないように近付き、背後から挨拶をする。
「少々よろしいですか?」
「何でしょう」
振り返りもせずに彼女は答える。それはまだ範疇の内だとリーフは彼女の背に一礼一つ。
「貴方のお呼び出しに参上した者ですが、顔も見せてくださらないのですか」
おどけて悲しそうな声音を作って見せると訝しげな気配が伝わる。次の瞬間、悲鳴をあげてすぐその口をリーフが手で塞ぐ。
「静かに。こんにちは。僕、pielloのリーフといいます。
先程の演説素晴らしかったですよ。感動しました」
「嘘を・・・おっしゃい!」
彼女は自分から手を払い、睨み付けてくる。
「ほんの少しもそんな気なんてないくせに!pielloなんて悪魔の遣い、私は信じないわ」
「変な話ですねぇ。貴方が依頼したのでしょう?僕らに願いを叶えて欲しいと」
「してないわ!」
リーフが眼を一瞬見開き、自分の背後のウサギを振り返るとウサギも戸惑っているらしく、とりあえず依頼書を手渡してくる。
「・・・念のために訊くけど、貴方はリリエッタ?」
「ええ」
「俗に言う異端修道士会の」
「・・・・他にちゃんとした名前はあるけど、そうよ」
気丈に言い返してくる彼女―リリエッタを横目にウサギと意識でやり取りをする。
(・・・お前、人違いなんじゃないか?正しいって?これ程はっきり断ってくるのにどこからの自信なんだ・・ ・?)
しかし自分のウサギは首を横に振り続ける。リーフは厭々考えつく提案を出してとりあえず仕事遂行に結びつくように動くようにした。
「~もしかしたら、貴方の身近の人が出したかもしれない。自分の名前では厭だけど、君を助けたいって言うね。よくあるんですよ」
「何で?」
「それは、人の考え方によりますが、貴方方なら僕らに頼り、自分ではできない事を頼む事を自分の罪と感じますか?それとも直接手を下していないから、自分の罪にはならないと感じますか?
それだけですよ」
さっと顔色を変え、唇を戦慄かせるリリエッタにリーフは嗤ってみせた。
「人の考える事は安直で醜い。しかしとても合理的だと思いませんか?」
「・・・貴方は本当の悪魔ね。夢の中で人を誑かす美しい夢魔だわ・・・!」
何度言われた言葉だった。リーフは逢った事がないため、夢魔は知らないがきっと似たような格好でもしているんだろうと勝手に思い込んでいる。内心面倒だったが、表面には出さずに自分を繕う。
「お褒めの言葉をありがとうございます。僕の顔は気に入ってくださって嬉しいですよ。
けれど、pielloはどこまでも人の願いに忠実である事が仕事ですから。
貴方が僕らを呼ばなかったとしても、僕らは貴方の願いを叶えますよ」
「・・・っ!!まだ言うの・・・!?」
「貴方をたぶらかすなんてそんな。僕らはどこまでも貴方方の呼びかけに対し現れる。
作品名:laughingstock4-3 作家名:三月いち