laughingstock2-4
ですからこういう例は珍しいのです。貴方にもう一度逢ったのも早々無いのですけど
けれどまぁこうせざるを得なかったんですけど・・・。
今此処に貴方の前に現れたのも僕から貴方にお願いがあったからなんです」
「お前が私にか・・・!!いいとも。何でも申したまえ!
しかしお前に対価は払ってもらうがな」
リーフはやれやれとばかりに目を輝かす公爵から逃げるように視線を逸らす。
「嫌な予感はしていたんですよ。貴方をあの館から見かけた時からこうなるのではないのかと。
・・・以前依頼を受けたときも何だかんだで全然依頼を完了させてくれないし監禁拘束状態だったし」
「私を前から見ていてくれていたのか!!!?」
「・・・結局アイツが迎えくるまで逃げ回ってたっけ。あれ?記憶が曖昧だな・・・
とにかく見ていないです見ていないです。・・・分かりましたよ。一日くらい僕を好きにするくらいなら」
「そうかね!では取引成立だ。依頼の最後のように約束して今まで5年ほど姿を現さないとかはやめたまえよ」
「あーーー・・・あれは、名も無きウサギに取引がばれて出してもらえなかったというか・・・」
頭というか帽子を居心地悪そうに掻きながら視線を泳がす。騎士は会話にまったくついていっていなかったがベナ伯爵は口惜しそうに舌打
ち一つ。
「あの共に居たウサギかね。まったく・・・忌々しい。早く観念して私の元へ来れば良いだろうリーフ」
近付いてくる抱擁しそうな腕から逃れて目を引くような笑みで微笑む。
「それはまた今度相談いたしましょう」
自分に向けられていると嬉しそうな公爵は何度も首を縦に振る。
「ふむ。・・・では本題に入ろう」
ようやく話がまとまった事に少々疲れた思いでリーフは騎士に視線を戻す。
「ああ。レイナス君。こんな場に入ってきた僕だけど君を助けにきたわけじゃないんでそこはよろしくね。
後、ベナ公爵、彼を貴方の騎士にする事にけちをつけに来たわけではないのです。むしろ推奨しにきたことを忘れないでくださいね」
「な・・・!」
「良いだろう」
抗議の声を上げた彼を黙らせてベナ伯爵が先を促す。
「とりあえずベナ伯爵、彼をさっさと連れ帰って此処から引き上げていただきたいという事。そしてどうか彼を貴方の領地に留めて頂きたいのですよ。
貴方なら簡単でしょう。人の使い道を沢山知っていらっしゃる。抵抗する者も逃亡する者も全て片付けてしまえるのですし」
「それは簡単だ。しかしこんな事を本人の前で話してもいいのかね?あまりに酷ではないか」
騎士の顔は青褪めている。噂には聞いた事があるのだろう。しかしリーフはそれこそ楽しそうに嗤う。
「僕の依頼人の願いの遂行はこれが一番だと思われます。一番穏便で彼以外に何の迷惑も掛けない。
そして彼は知るべきなのです。レイナス君、君の行動は無意識でも僕の邪魔だった。
依頼人の願いには忠実に僕は仕事を遂行するためなら何でもやるんだ。その後対象の人間がどうなろうと。
ああ。それとちょっと情を見せているけどこの方は噂通りの方だから気を付けた方がいいよ。長く生きたいならね」
青年はもう何も答えない。それを見下ろしてリーフはそれこそ哀れむようにそして侮蔑するように呟く。
「嗚呼。そういう顔をしている方が本当の君らしくていいと思うよ。とても醜くてもう誰も君を表面で見たりはしないだろうから。
・・・強い願いは他人の手を借りても叶えるべきだったね。そう、僕らpielloの手を借りても。
さぁ伯爵の剣を受け取り給えよ。君に最善を尽くしてくれる本当の人物に親愛の忠誠を誓うがいいね」
騎士の青年は青褪めた唇を噛み締めながら声を震わせてリーフに問い掛ける。
「・・・貴方の・・・貴方の依頼人の願いはなんだったんですか。何故俺を・・・そこまで閉じ込める」
リーフは必死で動かない身体を動かしてまで訴えてきた彼の姿を思い起こす。こうして見ると彼の一途なまでの思いは同じだろうがこれほど似ていない事に不思議な気持ちに駆られた。その気持ちのまま言葉を紡ぐ。
「最期まで悩んでいたらしいよ。君の願いが歪んでいたから止めるべきかどうか。君の想いが強いなら背を押そうとも考えていたみたいだね。
本当、それは感服する。碌でもない道でも君が選んだ道なら自分は言えないと思っていたのかもしれない。
でも君自身を見て思った。彼の願いは前者だろうと。
君の意志とは完全に言い切れない願いに君の尊敬する父親は胸を痛めていただろうから。」
騎士は動かない。ただ口の動きだけで何かを訴えようとして言葉になっていない。その様子に哀れさを誘う。
この結果だけでも自分にとっては譲歩だ。雁字搦めになった彼が引き起こす先は彼の想像する事は生まれない。
本当の事を知らされない彼の結末だとも言えるし二人のpielloが関わった結果とも言える。
二つの願いを叶える者が関与したらその間の望みを持つ者は潰れるしかないのだ。
「日々動かなく身体で僕らに願った。ねぇ君には合った?尊敬する父親に匹敵する自分だけの願いって。
自分の願いと他人の外側の願いを混同して、言い様に利用されているって一途過ぎて気付けなかった君への父親からの愛情だよ。これは」
答えながら思考を先へ向かわせる。これで伯爵に任せれば依頼人の仕事は終わる。だがまだ問題は終わっていない。
さぁこれで一つ。後一つ。
レイナスを伯爵に任せたまま、王城を出て街中を走る。誰もが劇団や道化師と思っているせいか不思議に思い自分に振り返る者は無い。ウサギは2匹とも側に居ない上、近くにも居ないので姿を消す事はできない。
目の前に現れたのはユージンの家。そこにpielloの気配とウサギの気配を感じる。
扉を開けようとすると目の前にキアラのウサギが現れた。そして寒々しい程の悪意を肌に感じ、仕方ないと思いながら肩を竦める。
「何故怒っているのか分からなくはないけど。どうしたんだい?キアラにお叱りを受けた?」
気配はそうは言っていない。ふと思い当たる事があり、視線を伏せた。
「ああ。・・・前のときと同じ二の舞になった事を怒っているんだね」
怒気が膨らむのが分かる。そう、以前も確実に依頼を終わらせたのはリーフの方だった。
「まだそうと決まった訳じゃない。依頼人を見届けるのもお前の仕事だろう?」
これ以上口にするとこのウサギのプライドを傷つけるという事を知っていながら相手を逆撫でる言葉を選ぶ。とそこで自分のウサギが遮るように姿を現す。
「名も無きウサギ・・・」
彼は咎めるような気配を送り、そして扉を指す。
キアラのウサギの気配が消えて扉の向こうへ消える。
リーフはそちらに視線を向け、走ったために暑くなっていた帽子を脱ぐ。潮風に晒されて自分の髪が靡いていくのを目の淵に捉えながら結末を待つ。
キアラが願いを叶えにユージンの元へ訪れた時は4日目の朝だった。ユージンは寝台に腰を掛けていて、仕事をする様子ではなかった。
側に寄ろうとした時に自分の側にウサギが現れる。薔薇の縫い付けてある自分の相棒。
彼はキアラに情報を送り、一歩後ろへ退く。
作品名:laughingstock2-4 作家名:三月いち