laughingstock2-4
2章4 Veie dalm
―約束をしよう。
僕らは生まれた階級が違った所為で死しても巡り合う事は許されない身だけど
「今生だけは共に」
時間は少々遡る。
3日目の夜、依頼人の部屋へリーフは向かった。3日目は別行動をしており、自分の側にキアラのウサギはいない。リーフは依頼人の部屋でもう彼の者が息を引き取った場所に膝をつく。あの時必死に握り締めていた薬瓶はもうない。誰かが片付けてしまったのだろう。
部屋を見渡してふと書類を留めている針を見つけた。それは今まで処方されたのだろう薬の処方箋だった。
「・・・?」
見ても自分には分からないため、それを戻す。
やがて背後の空間が揺らめき、見知った気配が生まれた。リーフは振り向き、自分のウサギに手を振る。
「やぁ、一日ぶりだね。名も無きウサギ。キアラとは上手く行っているかい」
少し咎めるような気配を感じ、ウサギを宥めるようにその腕に触れる。
「怒る事はないよ。ん?僕の方は何とかウサギを味方に付けられたような付けられてないような。あのウサギを完全に味方にする事は無理だからこんなものだよ。
それよりユージン君の事は分かった?此処へ来たって事はお前も大人しくキアラのウサギを演じているつもりじゃないんだろう」
ウサギの躊躇する気配にリーフは少しやりすぎたかと顔を顰めた。
(基本的にこいつは真面目だった事を忘れてた)
ばつが悪そうに帽子を押さえながらリーフはウサギの顔に触れ、額を押し当てる。
「・・・言い過ぎた。お前は僕を選んだだけ・・・だね」
気にするなとばかりに頭を振るウサギを見て、その赤い眼が正常を映しているのを確認して身を離す。
名も無きウサギは気を取り直すようにしてリーフにユージンとレイナスの情報を流し込んでくる。
それは自分の中での誤差を呼び、流し込み続けるウサギの腕を力任せに掴んだ。
「ちょっ・・・待てっ。何で・・・?話が違う・・・」
ぴたりと動きを止めた自分のウサギの両腕を掴み、リーフは声を荒げる。
「・・・何で?此処まで願いが違う?彼らは同じ思いを抱いているんじゃないのか・・・?
レイナスは最初から此処を所有して、」
そこで言葉を止める。そして改めて自分の考えに疑問を持ってウサギの顔を見上げる。その顔に表情が映る事は無い。しかし肯定しているようにも見えて絶句する。
「・・・「達」じゃない?ユージンの願いとレイナスの願いは同じようでまったく違う・・・?」
そして付け加えるように送り込まれる情報。
「・・・嗚呼。あの子達の所為じゃないのか・・・」
視線をかつてこの部屋で自分の膝に顔を埋めていた男のいた場所へ向ける。全てを受け入れていたのだろうか。自分の思い通りにはならない事も息子達が若いが故の想いに囚われたままだった事にも。
「・・・かないと」
声に出したはずが掠れていてまったく声が出ていない事に気がつく。ウサギが心配そうにこちらを覗き込んでいるがその胸元を掴んで訴える。
「王城の礼拝堂へ僕を送ってくれ!名も無きウサギ。」
4日目―
騎士が瞑想と祈りを寝むらずに終わらせた朝、公爵が現れ剣の授与を行うために礼拝堂へ入ってきた。何故か誰一人つれてきていない。フードを深く被った諸侯。そのフードを除けた先には金髪の美しい騎士の姿があった。
かつての英雄。詩人達が歌い讃えた歳若き天才。そしていつからか歪んだと噂される相手だった。
あの醜くとも自分の望む相手ではなかったことにレイナスは膝をつき、顔をあげずにきつく瞼を閉じた。
その他に彼の守護するものは皆外に出ているのだろう。
やがて彼が威厳のある声で膝まづく自分を呼ぶ。
「レイナス。皆の場で行う前に前戯を終わらせておく。構わぬな?」
「は。」
長き神の言葉が流れるように読まれた最後、公爵が抱擁して、言う。
「この剣を託すことでわたしはあなたに卑しさとは無縁の騎士の位階を授ける。義兄弟よ、どうしても戦わざるをえなくなった場合に思い出してもらいたい。もし、あなたのうち負かした敵が慈悲を哀願してきたなら、どうかそれを聞き入れ、承知の上で殺したりしない、ということを。また、男でも女でも、貴婦人だろうと淑女だろうと、助言がなくて苦悩しているのを知ったなら、そして、あなたにそれだけの力があるのなら、彼らに助言してもらいたい。これは実に立派な行いといえる。最後にきわめて大切な忠告だが、積極的に境界に赴き、万物の創造者があなたの魂を哀れみ、その忠実な使徒として永遠にあなたを護ってくれるよう祈るがいい。そして命を私に捧げよ。それは神の下へ還るだろう。我らが神の下に」
こう言い終わると公爵は手を上げたまま彼の頭上で十字を切り、さらに言葉を継いだ。
「神があなたを庇護し、導いてくださるように!」
「ああ。滑稽だな」
騎士は諸侯の声を聞きながら、恐怖を覚えた。同時にこんなところで彼の声を聞くわけが無いと信じていたのに驚いた。
顔を上げることを許されていないが、顔を上げてしまいたかった。
確かにいないはずの気配を感じるのだ。
頭上からは震えた公爵の声が聞こえてくる。
「嗚呼・・・そうなのか」
歯車がきぃぃと鳴っている。
リーフは騎士の様子を眺めていたが、此処からは自分の仕事であるので姿を現す。青年の横を通り過ぎると青年が身体を震わせたのが分かって恐怖を感じているのかと嗤いそうになる。
(それは正しいかもしれないけれどね)
公爵の前で止まり、彼の感極まった状態を見てかつての彼を懐かしく思い出す。初めて自分を見た彼も似たような反応を返していた。
そして自分が言葉を返すたびに恍惚を感じるような、そのまま消し飛ばせるなら消し飛ばしたいような嫌悪感を覚えていたのを思い出し、顔が引き攣りそうになるのを堪える。
「久し振りですね。ベナ公」
「おお・・・!!私の前へまた現れてくれたのか・・・リーフ!!!」
そうだ。彼はエリアス・ベナ公爵だった。彼の声はやはり感極まっている。愛しき者に逢えたとばかりに。
ベナ公爵は腕を広げ、今にもリーフを抱きしめてしまいそうな勢いだった。リーフはその彼の様子に苦笑し、一歩退 く。
「依頼がありまして。もう貴方の前に現れるつもりはなかったのですがまぁ渋々。貴方もお元気そうで何よりです」
「私の心配をしてくれるのか・・・!嗚呼リーフ・・・私の愛しきpiello」
「心配・・・?」
何か忘れている気がした。この公爵の変態さともう一つ。
「piello!?彼があの・・・?」
騎士は目を剥いてリーフを見つめてくる。嫌そうな顔を一瞬させた後、自分の二つの三つ編みを後ろへ払いながら騎士にきょとんとした 顔を返してくる。その様子をみていたベナ公爵は不思議な顔をした。
「ふむ?リーフ、君は彼に自分の事を説明していないのかね」
「依頼人でもないのでしていませんよ。」
「依頼人ではない?」
ベナ公爵が驚いてリーフを見つめる。リーフはそれこそおかしいと言ったように二つに分けた帽子を押さえる。
「ええ。この方は依頼人とは関係ありますが僕の依頼人ではありません。
―約束をしよう。
僕らは生まれた階級が違った所為で死しても巡り合う事は許されない身だけど
「今生だけは共に」
時間は少々遡る。
3日目の夜、依頼人の部屋へリーフは向かった。3日目は別行動をしており、自分の側にキアラのウサギはいない。リーフは依頼人の部屋でもう彼の者が息を引き取った場所に膝をつく。あの時必死に握り締めていた薬瓶はもうない。誰かが片付けてしまったのだろう。
部屋を見渡してふと書類を留めている針を見つけた。それは今まで処方されたのだろう薬の処方箋だった。
「・・・?」
見ても自分には分からないため、それを戻す。
やがて背後の空間が揺らめき、見知った気配が生まれた。リーフは振り向き、自分のウサギに手を振る。
「やぁ、一日ぶりだね。名も無きウサギ。キアラとは上手く行っているかい」
少し咎めるような気配を感じ、ウサギを宥めるようにその腕に触れる。
「怒る事はないよ。ん?僕の方は何とかウサギを味方に付けられたような付けられてないような。あのウサギを完全に味方にする事は無理だからこんなものだよ。
それよりユージン君の事は分かった?此処へ来たって事はお前も大人しくキアラのウサギを演じているつもりじゃないんだろう」
ウサギの躊躇する気配にリーフは少しやりすぎたかと顔を顰めた。
(基本的にこいつは真面目だった事を忘れてた)
ばつが悪そうに帽子を押さえながらリーフはウサギの顔に触れ、額を押し当てる。
「・・・言い過ぎた。お前は僕を選んだだけ・・・だね」
気にするなとばかりに頭を振るウサギを見て、その赤い眼が正常を映しているのを確認して身を離す。
名も無きウサギは気を取り直すようにしてリーフにユージンとレイナスの情報を流し込んでくる。
それは自分の中での誤差を呼び、流し込み続けるウサギの腕を力任せに掴んだ。
「ちょっ・・・待てっ。何で・・・?話が違う・・・」
ぴたりと動きを止めた自分のウサギの両腕を掴み、リーフは声を荒げる。
「・・・何で?此処まで願いが違う?彼らは同じ思いを抱いているんじゃないのか・・・?
レイナスは最初から此処を所有して、」
そこで言葉を止める。そして改めて自分の考えに疑問を持ってウサギの顔を見上げる。その顔に表情が映る事は無い。しかし肯定しているようにも見えて絶句する。
「・・・「達」じゃない?ユージンの願いとレイナスの願いは同じようでまったく違う・・・?」
そして付け加えるように送り込まれる情報。
「・・・嗚呼。あの子達の所為じゃないのか・・・」
視線をかつてこの部屋で自分の膝に顔を埋めていた男のいた場所へ向ける。全てを受け入れていたのだろうか。自分の思い通りにはならない事も息子達が若いが故の想いに囚われたままだった事にも。
「・・・かないと」
声に出したはずが掠れていてまったく声が出ていない事に気がつく。ウサギが心配そうにこちらを覗き込んでいるがその胸元を掴んで訴える。
「王城の礼拝堂へ僕を送ってくれ!名も無きウサギ。」
4日目―
騎士が瞑想と祈りを寝むらずに終わらせた朝、公爵が現れ剣の授与を行うために礼拝堂へ入ってきた。何故か誰一人つれてきていない。フードを深く被った諸侯。そのフードを除けた先には金髪の美しい騎士の姿があった。
かつての英雄。詩人達が歌い讃えた歳若き天才。そしていつからか歪んだと噂される相手だった。
あの醜くとも自分の望む相手ではなかったことにレイナスは膝をつき、顔をあげずにきつく瞼を閉じた。
その他に彼の守護するものは皆外に出ているのだろう。
やがて彼が威厳のある声で膝まづく自分を呼ぶ。
「レイナス。皆の場で行う前に前戯を終わらせておく。構わぬな?」
「は。」
長き神の言葉が流れるように読まれた最後、公爵が抱擁して、言う。
「この剣を託すことでわたしはあなたに卑しさとは無縁の騎士の位階を授ける。義兄弟よ、どうしても戦わざるをえなくなった場合に思い出してもらいたい。もし、あなたのうち負かした敵が慈悲を哀願してきたなら、どうかそれを聞き入れ、承知の上で殺したりしない、ということを。また、男でも女でも、貴婦人だろうと淑女だろうと、助言がなくて苦悩しているのを知ったなら、そして、あなたにそれだけの力があるのなら、彼らに助言してもらいたい。これは実に立派な行いといえる。最後にきわめて大切な忠告だが、積極的に境界に赴き、万物の創造者があなたの魂を哀れみ、その忠実な使徒として永遠にあなたを護ってくれるよう祈るがいい。そして命を私に捧げよ。それは神の下へ還るだろう。我らが神の下に」
こう言い終わると公爵は手を上げたまま彼の頭上で十字を切り、さらに言葉を継いだ。
「神があなたを庇護し、導いてくださるように!」
「ああ。滑稽だな」
騎士は諸侯の声を聞きながら、恐怖を覚えた。同時にこんなところで彼の声を聞くわけが無いと信じていたのに驚いた。
顔を上げることを許されていないが、顔を上げてしまいたかった。
確かにいないはずの気配を感じるのだ。
頭上からは震えた公爵の声が聞こえてくる。
「嗚呼・・・そうなのか」
歯車がきぃぃと鳴っている。
リーフは騎士の様子を眺めていたが、此処からは自分の仕事であるので姿を現す。青年の横を通り過ぎると青年が身体を震わせたのが分かって恐怖を感じているのかと嗤いそうになる。
(それは正しいかもしれないけれどね)
公爵の前で止まり、彼の感極まった状態を見てかつての彼を懐かしく思い出す。初めて自分を見た彼も似たような反応を返していた。
そして自分が言葉を返すたびに恍惚を感じるような、そのまま消し飛ばせるなら消し飛ばしたいような嫌悪感を覚えていたのを思い出し、顔が引き攣りそうになるのを堪える。
「久し振りですね。ベナ公」
「おお・・・!!私の前へまた現れてくれたのか・・・リーフ!!!」
そうだ。彼はエリアス・ベナ公爵だった。彼の声はやはり感極まっている。愛しき者に逢えたとばかりに。
ベナ公爵は腕を広げ、今にもリーフを抱きしめてしまいそうな勢いだった。リーフはその彼の様子に苦笑し、一歩退 く。
「依頼がありまして。もう貴方の前に現れるつもりはなかったのですがまぁ渋々。貴方もお元気そうで何よりです」
「私の心配をしてくれるのか・・・!嗚呼リーフ・・・私の愛しきpiello」
「心配・・・?」
何か忘れている気がした。この公爵の変態さともう一つ。
「piello!?彼があの・・・?」
騎士は目を剥いてリーフを見つめてくる。嫌そうな顔を一瞬させた後、自分の二つの三つ編みを後ろへ払いながら騎士にきょとんとした 顔を返してくる。その様子をみていたベナ公爵は不思議な顔をした。
「ふむ?リーフ、君は彼に自分の事を説明していないのかね」
「依頼人でもないのでしていませんよ。」
「依頼人ではない?」
ベナ公爵が驚いてリーフを見つめる。リーフはそれこそおかしいと言ったように二つに分けた帽子を押さえる。
「ええ。この方は依頼人とは関係ありますが僕の依頼人ではありません。
作品名:laughingstock2-4 作家名:三月いち