夢現の世界
いままで聞いたことがない、地獄の底から響いているような、全身の鳥肌が立つ笑い声だった。ワケがわからない。いったいなにが起こっているのか。ただひとつわかることは、僕が言ってはいけない事を言ってしまったということだけ。今更ながら、キョウジの言葉を思い出した。目の前の彼女は笑い声を上げながら恐ろしい老婆の姿になった。そして大の字になった僕の肩を信じられないような力で押さえつけた。僕は抜け出そうと体を動かした、つかまれた肩が痛む。彼女“だった”その老婆は僕の上に馬乗りになり、そして口が耳元まで裂け、まるでワニのようになった。僕はまるで極寒の地に裸で放り出されたようにガチガチと歯を鳴らした。「食われる」本能的に今の状況を理解、そしてこれが夢ではないということが今更ながら解った。そして僕は生まれて初めて「死」そのものを予感した。暗い、自分の手すら見えないような。完全な闇。老婆の口がゆっくり、楽しむように僕の頭に向かって迫ってきた。いやだ、死にたくない。怖い。誰か助けて。目を閉じることもできず、涙が出るのを止めることができなかった。
そして、老婆の口が残りあと10センチほどに迫ったとき、突然老婆の動きが止まった。
あっけにとられて僕は。まるで彫刻のように動かなくなった老婆を見ていた。そして周りを見渡した。なにか違和感があった。まるで写真の中にいるような感覚。そして理解した。老婆だけではない。すべての物が動きを止めていたのだ。
パチパチパチパチ
拍手をする音がした。音の聞こえるほうを見ると、キョウジがいた。
「僕が出てくる必要、無かったみたいだね。君はやっぱり“力”を持っていた。」
キョウジはあっけにとられて何もいえない僕を尻目に話を続けた。
「さて。何から説明すべきかな。質問ある?」
―全部。
僕は声を震わせながら答えた。キョウジは笑った。